【+3】コロコロ

幼い子どもが体験した怪異であるが、実に希少でなおかつほのぼのとした印象が強く、まさに“現代民話”と言ってもあながちおかしくないような話である。
出てきたものが“直径50cm”の丸い形をした品物ばかり、それがコロコロと目の前を通り過ぎるだけの怪異であるから、非常に微笑ましいという印象しか残らない。
本当は大きさが全く異なるものがほぼ同じサイズになって現れるところが実にとぼけた味わいであり、狐狸の類によるまやかしを彷彿とさせる内容であると考えられる。
とにかく“怪異”という言葉が少し重すぎるのではないかと思ってしまうほど、愛くるしい場面がイメージできるのである。
そこへ来てカレーが盛られた皿が縦になって転がって来るという、それこそ呆気にとられるようなインパクトのあるものが登場する。
まさに奇想天外しか言いようがない展開ぶりなのである。
しかし、仮にそこで終わっていたならば、おそらくそれほど高い評価は出来なかったのであるが、ここからただの目撃談が希少な体験談に変貌する。
体験者がカレーに手を突っ込んで、その熱さに思わず泣き叫んだこと。
そして手を泥まみれにしているところを母親が目撃、さらにカレーの匂いがすることを祖母が指摘する。
体験者の幻覚であるかもしれないという疑念をきれいに振り払うだけの、客観的な証言が話の展開の中で提示されるのである。
この部分があるからこそ、この怪異は信憑性を獲得しているのであり、その希少性をさらに高いものにもしていると言っていいだろう。
小粒な不思議譚としては出色の出来であり、素晴らしいの一言に尽きると思う。