【+1】天国

非常に判断の難しい作品である。
努めて冷静に書いているものの、どうしても体験者の義母に対する恨み辛みというものが透けて見えてくる印象が強く、ある意味客観性に欠けるきらいがあるように受け止める部分がある。
しかしこの作品の場合、この偏った見方がなければ成立し得ない部分があるのも事実であり、義母の激しい怒りが念となって災いを引き起こしているという解釈が前提にある以上、この偏見はやむを得ないところであると言えるだろう。
ただ行き過ぎていると感じるところもあり、例えば、義母の怒りが爆発したきっかけが孫の言葉にあるかのような展開はやはり常識的に見ても異常であるように思うし、また義母の怒りの念によって引き起こされる怪異の範囲が広がりすぎている(孫のアレルギーはさすがに省いた方が無難であるだろう)のも違和感を覚えるところである。
これらの行き過ぎ感は、却って怪異が“思い込み”であるのではないかという疑念を生む恐れがあるだろう。
純粋に怪異であると判断できる体験者の自動車運転の怪異だけをクローズアップさせ、他の微妙なものはカットするなりサラリと書くだけに留めた方が迫力が出たのではないだろうか。
特に嫁と姑という関係であり、この手の感情の軋轢の典型だけに、却ってすっきりと読めるようになったかもしれない。
最後の義母絶命の場面であるが、義母の幻覚であったとしても、彼女が家族などに対して“地獄に堕ちてしまえ”と呪詛を意図的に仕掛けていたことを暗示するものであり、これはこれで鬼気迫るものを感じるところがあった。
実際に起こった怪異については微妙なものも多く、また小粒なレベルでしかないという判断であるが、それを補って余りあるのは“嫁と姑”という対立構造から来る感情のぶつかり合いの凄まじさである。
“怪異を通して人を書く”にしては怪異がやや物足りないのであるが、義母のキャラクターが抜きん出て強烈であり、その執念深さがよく出ているということで、若干ながらプラス評価とさせていただいた。
これで怪異の内容が、あからさまに義母が絡んでいて、なおかつ強烈であったならば、かなり評価できる作品になっていたかもしれない。