【−2】櫛

全体的な話の流れにおいて不自然な点がかなり見られたために、かなり身構えて読んでしまった。
経済的な理由で転院しながら個室に入院という最初の段階からつまずいてしまったし、またすぐに鎮静剤を打つ手際のよい看護師の登場(そのくせ妻の悲鳴にはほとんど反応していない)、そして院長の許可を得て天井裏を覗き込んで発見した櫛をそのまま元に戻すなど、何か御都合主義的な展開が目立つのである。
事実であったとしても、これだけの不自然な行動が出てしまうと、やはり胡散臭さの方が強くなってしまう。
書きようによっては自然な流れに引き寄せることが出来るようにも思うが、とにかくそれらの行動に伴う心理的な説明がないために唐突感が否めず、結局都合のいい展開にしか見えなくなるのである。
そして肝心の怪異についてであるが、そのほかの内容と同じような調子で、ほとんどメリハリのない書き方になってしまっており、一本調子な印象しか残らない。
特に怪異の原因である“櫛”に関するディテールが少なく、完全に拍子抜けしてしまった次第である。
作品を読む限りでは、取材の際の掘り下げが不完全で、体験者から十分怪異の内容を聞き出すことが出来ていないという印象である。
内容次第では十分な怪異譚として読めるだけの作品になっていたと思われ、やはりあらゆる面で練り込みが足りないという判断をしたので、かなりのマイナス評価とさせていただいた。
たとえ書かれている内容が事実であるとしても、それを“事実らしく”見せる工夫をしなければ、結局“あり得ない”事実を主題とする怪談の世界ではリアルさを勝ち取ることは出来ないということである。