【+2】バンジージャンプ

“あったること”だけをしっかりと書き綴ることが出来れば、きちんとしたものに仕上げることが出来るというお手本のような作品である。
時系列を逆転させている部分はあるものの、おおむね顛末を順序よく書き、取りたてて奇抜な工夫もすることもなく書いている。
しかし、それでも魅入られたように飛び降りようとする大住氏の体験とその瞬間の心理が過不足なく書かれているために、じわりと来る恐怖には逆らえないところである。
おそらくバンジージャンプをした場所で、以前に飛び込み自殺が複数あったのではないかという推測が成り立つし、その霊を背負い込んでしまったと解釈するのが一番妥当であるだろう。
一種のトランス状態にさせてしまうだけの強烈な憑依であり、おそらく現場だけではなく、最終的には普段の生活の場面でも
高所に立てば“バンジー!”の号令が掛かるようになることが予測されるだけに(というよりも、もっと恐ろしいのは足が勝手に高所へ向かうようになる可能性すらあることである)、きついものを感じざるを得ない。
この作品の優れている点は、このような深読みまで可能にさせてくれる余地を作っているところであり、文章や構成がシンプルであるが故の効果であると言えるだろう。
怪異の本質を掴んでいるからこそ評価できる作品ということである。