【−1】眠れぬ理由

“病院の怪談”としてまだ生きている人間の幽体離脱がメインとなる怪異譚は、かなり珍しいという印象である。
しかも入院している体験者に対して特別な災いをもたらしているわけでもなく、その点でも非常に希少な怪異であるという印象である。
おそらく怪異を引き起こしている側からすれば、別に何かを意図しようとしているわけでもなく、ただ何かのはずみで隣室のベッドに現れてしまったという感じなのかもしれない。
それ故に、それなりの希少性を持った怪異譚であるという印象であった。
しかしこれを書き方によって、悪い意味で非常にあっらけかんとした印象に仕立ててしまっている。
当然病院で起こる怪異であるために、通常のシチュエーションとは格段に怪異が起こる確率が違うのは当然である。
しかしこの作品では、まさに起こった怪異に対する話者達のリアクションが“通常的”すぎるのである。
目撃したあやかしの顔付きから、隣室の老人が関わっているとする判断はいいのだが、その真相を知ったところでの恐怖感や緊迫感がなく、非常に機械的にベッドを動かす作業で終わってしまっているところは、突き詰めれば“ルーティンワーク”のような印象すら覚えるのである。
これではあまりにも無味乾燥すぎて、怪異が怪異としての興味を惹く存在となり得ていないと言うしかない。
“あったること”の事実としては怪異であるが、それがいかにもごく普通の出来事であるかのごとき表現に徹してしまっているために、読み手からすれば大したことが起こっていない、さらに言うならば怪異を怪異として受け止めるだけの認識すら持つことが出来なかったと言わざるを得ない。
面白い怪異ではあるが、それを怪異と認めさせるだけの説得力を書き手が完全に作り出すことが出来なかったということで、残念ながらマイナス評価とさせていただいた。