【+1】雪桜

“動物ネタ”定番の、お涙頂戴の文章とはややおもむきが異なるという印象を持った。
全体的に感情をダイレクトに表現する言葉を抑え、体験者と犬の交流も描写中心でまとめ上げたために、ウエットではあるもののべたついた印象は皆無であり、いわゆる嫌味のないトーンで語られるところがよかったのだと思う。
書き手が仰々しくこれ見よがしに書かなくとも、本当に心が通い合っていれば、それなりの調子で書くだけで読み手にも素直に感情の波が押し寄せてくるわけである。
ただし怪異としてはどうしても弱いと言わざるを得ないところであり、雪の上に足跡が付くという現象があるからこそプラス評価をしてもよいというレベルである。
おそらく声とか気配だけであれば、評価は厳しくなっただろう。
肝の場面と言うべき桜の木の出来事についてはかなり微妙な印象であり、やや演出過剰ではないかと感じた(この場面で春の季節の頃を思い出すという記述があるのはかなりくさい)。
ギリギリ抑えているという印象だが、もっと淡々としていても十分真意は伝わるのではないかという意見である。
さほどインパクトがあるとは言えない怪異を、有り余るほどの叙情でカバーして“読ませる”作品に仕上げ点は評価できると思う。
よって若干であるが、プラス評価とさせていただいた。