【+1】いつも来るとは限らない

作品全体をほんわかとした雰囲気が包み込んでいる印象が残った作品である。
恐怖が一瞬走ったのは、最初に現れた女のあやかしの場面だけ。
それもどちらかと言うと軽く流す感じで引っ張らず、メインである次の怪異へとうまく繋いでいく。
女のあやかしの描写については若干情報が少ないようにも思うが、これが主たる怪異ではないため、取りたてて不足感を覚えるところではなく、むしろ上手く刈り込んでいるという印象の方が強かった。
そしてメインである2匹の動物のあやかしであるが、こちらは若干くどい講釈が見られた。
体験者は最初に“猫”と視認し、さらに詳しく観察して“虎”と判断したわけであるが、そこへ友人の解釈である“狛犬”が被さって提示される。
ところが、この友人の解釈も主観的な判断であって、結局本当に“狛犬”なのかの確証がない。
この臆見で二転三転するあやかしの正体をここまで書くのは、やや冗長すぎるのではないだろうか。
特にこの2匹のあやかしの正体が怪異の本質(女のあやかしを撃退する)を明確にさせているわけでもないので、ここにこだわる必要性はなかったように思う(もし仮に、この2匹が“家の守り神”であるかのような暗示であれば、それこそその出自をもっと明確にさせなくてはならなかったかもしれないが)。
オチのエピソードに関しては“あったること”であり、この2匹のあやかしがメインである以上、挿入する必要性を感じさせるものである。
ソフトな語り口でしっかりと怪異をまとめているという印象で、少しだけプラス評価とさせていただいた。
敢えて言えば、この友人の家柄についての情報が少しでも分かればもう少し面白い展開もあったかもしれないが、この作品についてはこれで十分まとまっているという印象である。