【+2】ゲストルーム

冷静で落ち着いた雰囲気の文章で書かれているのが、体験者の人柄と非常にマッチしており、好感の持てる仕上がりになっていると思う。
この世に念を残す霊的存在(死霊・生霊を問わず)を全て悪とみなして排除しようとする、あるいは恐怖の対象として頑なに拒否する、もしくは興味本位の対象としてだけ関わり合おうとするような傾向が強いのだが、結局は霊とは生身の人間の延長線上にある存在であり、決して我々とは相容れることの出来ない異質の存在ではないということである。
この体験者のように寛容な態度に出れば、余程の存在を除いては、やはりその姿勢に対して感応されるケースが多いと思うし、そのあたりは生身の人間同士の関係にも似たものであるだろう。
そしてそういう人間のいるところは“居心地のよい場所”ということで、この話にあるように、霊も寄せ集められてくるようになるのだと思う。
ただこの話の希少なところは、霊の表情に変化があり、癒されているということが明確に分かるという点である。
心を開くというのか、浄化されるというのか説明が付きにくいのであるが、近親者以外の霊体との関係で表情が和らぐという現象が起こったという話は聞かない。
生身の人間が霊に対して癒しを与える構図は非常に珍しいと思うし、それが明瞭にわかる部分があるのはさらに稀であるだろう。
良い話を聞かせてもらったという気持ちで一杯である。

【+1】父親というものは

親が亡くなった直後から子供を守り続けるという話は結構多い。
この話もその王道パターンを踏襲していると言えるだろう。
霊の出現から、結婚を考えた人のことを反対された後に問題が発覚するエピソード、配偶者のところに挨拶に来るエピソード、そして具体的に魔物から家族を守るエピソードなど、見事なまでにパターンが展開している。
そしてそれらのトピックが紋切り型にならない程度の細かなディテールが加わっているので、読んでいて退屈はしなかった。
だが全体を通してみると非常にまどろっこしいところが多くあると感じた。
おそらく体験者(話者)に対して書き手が感情移入しすぎたために、聞いた内容を刈り込めなかったことに起因しているように受け止めた。
この話をこの長さで引っ張っていくためには、体験者を軸としたストーリーを編むのではなく、“あったること”として父親の霊を軸に客観的な記録を構築する方がむしろすっきりして良かったのではないかと思う。
その方がタイトルにも叶った印象になると思うし、グダグダした文章展開もなかったのではないだろうか。
ネタの希少性や文章展開に瑕疵があると判断したので、評点はこのぐらいということである。

【0】毛玉

高速道路を走行中にじっくりとあやかしを観察することは無理なので、目撃体験談としてはこのあたりの詳しさが限界ではないかと思う。
むしろよく見ている方ではないかと考える。
それ故に、この作品の場合、可もなく不可もなくというのが妥当な評価であるだろう。
ただこういう一瞬の目撃談の場合、その目撃したあやかしの容姿をどのように読者に伝えるかによって、雰囲気は大きく変わると思う。
この作品で言えば“黒いマリモ”という表記は非常にインパクトもあって、なおかつイメージしやすい。
だが、イメージしやすいということは、逆から見れば、イメージの固着につながる。
目撃したもの自体が奇想天外なほど珍奇なものであったならば、出来るだけ具体性を持たせるためにより印象深い言葉を選んだ方がよいと思う。
しかし解釈の施しようのないものとして読者の想像に委ねたければ、ストレートで具体的な形容は避けなくてはならない。
何でも明瞭に判るように書くだけが怪談ではないし、そのあたりの按配こそが書き手のセンスということになるだろう。
この作品に登場する“毛玉”は、毛の塊という具象性を帯びていても妖怪っぽく見えるし、そのあたりをぼやかして生首ではないかと読者の想像させても面白い効果があると言える(結論から言えば、この作品ではどちらでも効果有りと見るので減点・加点の対象とはしない)。
書き手自身が読者に対してどのような効果を与えた方がベターなのかを意識しながら書く場合の、一つの方法論ということで。

【+1】夏空の下で

自分の生まれる前に死んでしまった親戚と遊ぶという話は相当あるし、この作品ではそれ以外に希少なディテールがあるとは思えなかった。
それ故に怪異そのものとしては、ありきたりであるという判断である。
しかしながらこの作品の場合、この怪異をどのように読者に提示するかの観点で書き手が非常にしっかりとした視点を擁していると言える。
程良い甘さでノスタルジーを想起させるかを意識しながら全編を書いていることが分かるし、またそれに成功している。
怪異を通して人の心を書くという視点に立って書かれている点では、評価できるだろう。
ただ正直なところ、それに力点が置かれすぎており、怪談としてやや冗長と感じる部分があったことも確かである。
もう少し言葉を減らして、ストーリー展開をてきぱきとした印象にすることが出来れば、いい怪談話になったと思う。
微妙なところだが、少々甘めに評点を付けさせていただいた。