2007-03-01から1ヶ月間の記事一覧

【+2】迷い手

一つずつの怪異は大したものではないが、同じ怪異が複数の証言を得て積み重ねられた時、なかなかのネタになり得るというお手本のような作品である。 はっきり言ってしまえば、この怪異の中の1エピソードだけであれば、多分評点はマイナスになっていたと思う…

【−3】避難訓練

“実話怪談”と称するにはリアリティに欠ける部分があると判断する。 それを最も感じるのは、“学校”という公の場で起こった“事故”であるにもかかわらず、後日談が非常に曖昧である部分であろう。 特に副担任という立場の体験者が、生徒の安否(状況から考えて…

【+1】てのひら怪談

身体に模様や文字が浮き出てくる怪異は存在する。 実際に映像や写真で見たことがあるが、中には“見ようによっては”というレベルのものもあるし、どう見てもあり得ないぐらい明瞭に見えるケースもある。 ただしこの怪異はおおむね“憑依”によって生じることが…

【+4】やり直し

一分の隙もない構成と無駄なく的確な言葉の選択で、怪談を超えたドラマを感じさせる作品である。 個人的には、かなり分厚めの小説のエピローグを読んでいるような気分に陥ってしまった。 全く説明はなされていないが、この二人の男女の持っているプロフィー…

【+1】白い

下手に怪異に対する解釈を出さずに当時の体験と感情だけで構成させることで、うまく危険を避けたという感じである。 この手のパターンは、かつて“<守護霊様>が現れた”という興奮を持って滔々と語られた種類の怪異である。 結局、些細な事故を偶然回避した…

【+4】公園デビュー

畳みかけるように明らかになる怪異と同時に、どんどん気まずくなる周囲の雰囲気が見事に活写されている。 それを彩るのが、登場するもの全てが典型的なキャラクターを持ち、それぞれの役割・ポジションを維持しながら絡み合うところであろう。 精神的に壊れ…

【+1】図書館

文章を読んでいて一番気になったのは、体験者の語りの部分である。 冒頭の「小心者」発言から始まり、「督促状云々」、「こんな時間に仕事」、「泥棒」など、本筋である怪異の展開とは直接関係のない感想が殆どを占めている。 言い訳めいた言葉や些末な説明…

【+3】煙

全体的にはやや誇張気味とも取れる人物描写が気になるが、劇的な恐怖を遺憾なく発揮した作品である。 火葬場で起こる怪異もいろいろあるが、煙がたなびかずに下がっていき、それどころか意志を持ったように屋内に入り込んで怨みある人に襲いかかるというのは…

【−1】くの字

この作品の怪異の肝は前半の事故の場面ではなく、その事故を目撃した体験者が被害者の事故を追体験する場面であるはずだ。 ところがその後半部分があまりにもスカスカしすぎている。 原因は、追体験である夢での感触の緩さである。 “骨折、筋断裂、内臓破裂”…

【+2】近所迷惑

ついに“一文怪談”の登場である。 前大会では<良い・普通・悪い>しか分類できなかったために、大方の“1ページ怪談”は<良い>として高得点を獲得してしまったが、今回は配点が細かくできるので然るべき評価が出来ると考えており、実際に大ネタや良作との差…

【0】無事故祈願

この作品で語られている内容が偶然なのか、あるいは必然なのか、そのあたりの判断に非常に苦しむところである。 何もないところから小さな御札が落ちてくるのは、これは疑うこともない不思議な出来事である。 しかしその後の「凄い美人」が問題である。 これ…

【+1】後悔

機械の中にあやかしが潜んでいるという、よく見かけるネタであるが、結構新鮮な印象を与えてくれる話である。 この作品では自動販売機の中にいる、毛の塊のようなヤツである。 この存在だけでも怪異であるが、そいつが自動販売機から缶を路上に置く、しかも…

【+3】掛け布団

取材の内容が不足しているのか、あるいは作者が極端に内容を削ぎ落としたのか判らないほど、読者が読まねばならない行間が広い作品という印象が強い。 例えば、あやかしである老人に関する一連の行動についても、もっと詳しい描写が欲しいと思う気持ちと、こ…

【−2】渋谷の飲食店で

時系列を入れ替えて構成に変化をつけてみたが、如何せんネタが貧弱すぎる。 トイレに入る男を複数が目撃し、他に出入りできる場所がないことを確かめてからトイレの中を見ると誰もおらず、さらに中に誰もいなかったにもかかわらず同じ男がそこから出ていくの…

【−3】玄関荒らし

最初の1行目から全てが読み通せてしまうという、単純明快な話である。 これでは怪談話というよりも、怪異のインフォメーションである。 何の捻りもないし、特別なオチも用意されていない。 敢えて挙げるならば、瞬間的に犬の霊が靴をグチャグチャに乱してし…

【−4】タマゴ

怪異の一つずつを見ていくと、非常に不気味な印象を与えるものが並んでいると思った。 ところが作品を構築していく際にこれらの怪異がきれいに繋がらなかったために、一気に怪異としての魅力を失ってしまった。 結婚式当日に義母が渡したタマゴの謎は、不可…

【−1】パチスロ台

怪異そのものはさほどのネタでもなく、あまり印象に残るようなものではない。 そのような小粒なネタに因果を絡めてしまうと、どうしても胡散臭い雰囲気が漂ってしまう。 この作品も、そういう意味であまり高く評価できなかった。 それと同時に気になる点があ…

【+2】連続攻撃

まさに狐狸妖怪の類の仕業と言っておかしくない話である。 本道と待避所に置かれた車の位置関係がわかりづらかったのが難であったが、突撃してくるあやかしの描写が的確だったので、怪異の内容を壊すところまでいかなかった(むしろ細々した表記になるため、…

【0】1991年

大ネタまではいかないが、心霊現象として非常に希少価値の高い内容でありながら、怪異の内容がアラばかり目立つという感じである。 明確に書いていないが、体験者が雨の日に目撃したのはまさしく自殺者の霊体と見なしていいだろう。 さらにその霊体に憑依さ…

【+4】猫だまし

“神様系”の怪異であるが、神威に対する畏れというものを扱った、なかなか意義のある作品である。 こういう霊験あらたかな体験談であるので、検索できるだけの情報が書かれてあっても問題はないと思う(これが“呪い”やら“祟り”であれば、あまり大っぴらにする…

【−4】がりがりくん

見事なまでに怪異の本質を見誤った作品と言える。 巨大な3つの段落のうち、最初の2つは怪異の肝から考えると、9割以上は無駄な表記である。 タイトルにまでなっている『がりがりくん』すら不必要の一言である。 後段で「ガリガリくん」を老人が食べている…

【+1】友の忠告

“病院怪談”の中でも、医師の過去の悪事にまつわる怪異は不動の黄金パターンの一つである。 特に“女癖の悪い産婦人科医”は格好のネタといっても過言ではない。 どのような怪現象が起こるかは別として、この作品のようなストーリーはそれほど希少性が高いとは…

【−3】縁

タイトルに堂々と『縁』という言葉を使っているのだから、さぞかし強い結びつきを持った因果が書かれていると思ったら、強烈な肩透かしを食らってしまった。 “縁”という言葉を使う以上は、一見何の繋がりもない事象に誰もが納得のいくような関連性が必要であ…

【+2】家族の食卓

結論から言うと、読者に対して怪異をどのように見せるかの点で中途半端になってしまった感が強い。 具体的に言えば、恐怖を煽ろうとしたのか、厭な雰囲気を味合わせたかったのか、悲しみや哀れさを誘おうとしたのか、そのあたりが全然見えてこないのである。…

【+1】横顔

体験者の格闘の場面などを読むと、相当文章を書き慣れているという印象がある。 また30年以上前の当時の風景を巧みに書きだしているところを見ると、その時代を知っているか、あるいは体験者への取材が非常に上手かったか、いずれにせよ当時の雰囲気を彷彿…

【−1】守備範囲

いわゆる“見える”人と“見えない”人との違いは明瞭であるが、同じ“見える”人同士の間でも同じ対象を見ているにもかかわらず違うように見えることが多いらしい。 たとえば一方が明瞭な人の形に見えていても、他方はそこに発光体しか確認できないというケースで…

【+3】溜め池

全体的に説明的文章が多く、それが展開の臨場感というものを奪っているように感じる。 特に急展開や場面が切り替わる部分で、その傾向が強く見られた。 そのために話の自然な流れがうまくできていないという印象が残った。 例えば、溜め池の巨大魚の出現、少…

【−2】チョコレート

既存の創造物を援用して怪異の内容を表現することは勿論ご法度であるが、同じく既存の作品に依存するネタも余程慎重に掛からねばならない。 正直言うが、「黄金のチケット」とチョコレートの関係に気付くまで相当のタイムラグが生じている。 下手をすると誰…

【+5】袖引き

これでもかと言わんばかりのドロドロの話である。 この手の話は不条理さも良いのだが、ここまできちんと因業話が絡んでくる方がなお強烈なインパクトがあって良い。 特にこの作品では、厭な雰囲気を強調させて「何かがある」という思わせぶりを作りながら、…

【+1】温もり

読者を上手く誘導させておいて、最後で小気味よい裏切りを見せる点は評価できる。 ネタとしては小粒であるが、こういう細工がなされていると印象はよいと思う。 ただし文章全体が説明調であるために硬いという印象が強く、これが体験者の感情面での効果を妨…