2011-04-01から1ヶ月間の記事一覧

『便所』

中国で起こった怪異であるが、戦後間もない頃であれば、便所は共同で家屋の外にあったというケースで起こった怪異もあるので、特殊な風習が引っ掛かってくるという印象もなかった。かなり昔の日本で起こった怪異であると言われても通用するのではないかと思…

『まよいが』

怪異を要約してしまうと、狐狸の類に化かされたという話になってしまう。しかしこの作品は、ディテールにその価値があると言っても過言ではない。 まず化かされている最中のディテールであるが、相手の男が鉄砲を非常に恐れているというくだりである。外へ追…

『戻らないと』

非常にリアルな臨死体験の証言である。状況から考えると、まだ完全に“あの世”にも移動していない、まだ病室で魂が体外へ抜け出た瞬間の段階である。しかしその場面を簡潔な言葉で綴っており、見たままがきちんと書かれていて、的確な内容であると言えるだろ…

『僕のクワガタ』

はっきり言うが、こういうタイプの話はまさしく【講評者殺し】。あさっての方角から来たような突拍子もないような怪異も色々あるが、ここまでとんでもなく理解不能に陥りそうな話も、そう滅多とない。書かれてある内容は現実離れもいいところなのであるが、…

『人香』

人の持つ超能力的なものにまつわる話は、それ自体は怪異でも何でもなく、いわゆる“奇譚”と呼ばれるジャンルに集約されるという意見である。この作品に出てくる“人の焼かれるニオイで性別などを当てる”能力そのものに超常現象的な印象はほとんどない。むしろ…

貌浪

お盆に漁をすることは古来よりの禁忌。亡者が戻ってきており、仲間にされてしまうという伝承が全国的に残されている。この作品は、この伝承が真実であることを裏付けていると言うしかない内容である。それ故に、かなり希少な内容である。 怪異そのものである…

『踏切』

“異界”ネタの中でも、かなり毛色の違う印象を持つ内容である。やはり“西日の差す荒野”のイメージの圧倒的な存在感は相当なものであり、この存在を見事に描写しきったところに、この作品の成功はあると言ってもおかしくないだろう。それほどまでに、踏切を越…

『セントラルロード怪談』

目撃場所が具体的に書かれているので非常に興味を持って読んだが、しかし、妖怪目撃談としては最低レベルの内容と言うしかなかった。 最初に“一反木綿”という既存の妖怪キャラクター名を出しておきながら、その後の証言内容が二転三転、最終的にはあの“一反…

『飢えていた者』

怪異の内容はかなりきついものを感じる。はっきりと見える霊が七体、しかもそれらが食料を漁って食らい尽くすのであるから、その光景は相当えげつないものになると想像出来るはずである。ところが、作品を読むと全然迫力がないし、恐怖感という点でも全く響…

『手鏡』

“死期を迎えた人が自らの手を手鏡のようにして見つめる”習俗は、聞いた記憶もないのだが、あってもおかしくないような気分にさせられる。やはりそこに死にゆく己自身と対峙する瞬間という、何かしら心揺さぶられる感情の波を認めることが出来るからである。…

『湖畔の宿』

旅先の怪異としては定番と言えるものであり、部屋に現れた霊体についてはかなり詳細が書かれていてリアリティーに溢れていると思うが、いかんせん、あまりにも定番な出現で興味を惹くレベルではない。しっかりと書かれているので決して悪い印象にはならない…

『おすそわけ』

怪異としては、ジャーのお釜が、炊きたての御飯の入った状態で玄関に突如出現したという内容であり、それなりの希少性があるものである。しかしこの怪異を活かすには、やはり細かな説明で長々と書くのではなく、的確な状況説明で簡潔にまとめてしまうのが正…

『井戸端会議』

この作品も、阪神大震災という未曾有の災害と怪異とを安易に繋げてしまったために、非常につまらない終わり方になってしまったと言える。地震直前に怪異のクライマックスを迎えたために、何らかの関連性を覚えて、それを持ち出したくなるのは心情的に理解出…

『誰がやった』

8個の時計の全てが一気に狂った時間を指すという怪異は希少であり、それなりのインパクトはあると言えるだろう。しかし、この作品はその怪異の本質を活かすことをせず、むしろ非常につまらない印象にまで押し下げてしまっている。はっきり言ってしまうと、…

『借りてきた本』

怪異譚の中で“髪の毛”というアイテムは意外と重要な役目を負っていることが多い。例えば室内であり得ない長さの髪の毛を発見することから強烈な怪異が始まる話もあるほどだし、特に女性の髪の毛は怪異の予兆に近いものを感じる。 この作品では、はっきり言え…

『鼻歌』

この作品における恐怖の中枢は、中年女性の霊体が引き起こす怪異ではないと言える。鼻歌のような他愛のないものだけではなく、実際に首を絞められて危害を加えられている人間もいるわけであり、霊障は相当きついものがあるのは間違いない。しかしこの作品で…

『ちょっと一服』

龍の目撃談である。これ自体がいかに希少な体験であるのかは言うまでもないのであるが、この作品ではその最も肝心な部分が全て吹き飛んでしまっているために、全く残念な話になっている。 いわゆるUMAと呼ばれる生命体を目撃した場合に「○○を見た!」とい…

『だまし絵』

まさに怪異と錯覚の紙一重という印象である。この手の幻覚が伴ってくる怪異は、間違いなく「いかにリアリティーを獲得するか」にある。それに失敗してしまえば、いくら真実だと主張しても、読み手は納得しないだろう。とにかく書き手にとっては相当ハードル…

『逆三角形』

テンポよく流れるように書かれている作品であるが、怪異を検証していくと、かなりのアラが目立つ。 最初の目撃で、財布を盗もうとしている相手の“筋肉質の体型”が体験者の目に飛び込んできたとあるが、それ以外の容姿についての情報がほとんど書かれていない…

『二月の出来事』

怪異の現象としては、掛け軸から何人もの霊体が現れて天井をグルグルと回るというもの。おそらく心霊現象としては、“霊道”が開いたと言うべきものではないかと推測する。霊道と一括りにして言っても、実際には常時開いているケースもあれば、特定の日時のみ…

『晩秋の湖』

怪異の希少性から言っても抜群であるし、とにかくその初見のあやかしを的確な言葉で言い尽くしているところが素晴らしい。パーフェクトとは言わないが、これであやかしの容姿や行動について分かりづらいと言うなら、読解力に問題があると突っ込まれても致し…

『肝試し』

UMAのオウルマンやモスマンを彷彿とさせる怪異なのかと思いきや、高尾山の名前を挙げてきて敢えて“天狗”を想起させようとしたのは、書き手の工夫としては良かったかもしれない。ただし“天狗”の怪異の場合、羽音を立てたり、その姿を現すようなことはしな…

『ひらひら、ぽーん』

オノマトペ満載の文章であるが、この言葉も怪談にとってはプラスとマイナスの効果をもたらす。この作品の場合はどちらかというと、マイナス効果の方が強いと感じる。 オノマトペの強味はとにかく感覚的な言葉であるので、書き手が対象を曖昧にしたい場合に効…

『個室』

怪異としてはかなり面白い部類に入るのではないだろうか。古い便所が建物ごと、しかも便槽まで消えてなくなるという内容であるが、こういう大掛かりな消失ネタはあまり聞かない。また全体のすっとぼけたような書き方も、それなりに合っているように感じた。…

『引っ越し先のアパート』

事故物件の家にまつわる怪異としては、まさにど真ん中ストレートの内容である。実際に怪異が起こる原因の裏付けもあり、それに沿った形で怪異も起こっている。おそらく普通に書けばそれなりのプラス評価になるだけの十分な怪異であると思う。しかしこの作品…

『杏の木』

“あったること”を時系列に従って書いているだけのように見えるが、杏の木とそこに絡む蛇を中心に据えた怪異の連続によって、非常に堅牢な因縁話を作り出している。因果の端緒である事態こそ明確ではないものの、ここまで連続的に同じ怪現象が続くことそのも…

『期末テスト』

一番引っ掛かったのは、果たしてこの夢が“予知夢”であるかという点である。 それを端的に証明するために提示しなければならない内容は2つあるだろう。一つは夢で見た解答が完全にテストの設問順であったかどうか。そしてもう一つは漢字の間違いが夢で見たま…

『晩酌』

“ちいさいおっさん”目撃のパターンであるが、酒の入ったぐい呑みの中から出現するというのは初見である。しかも顔を半分だけ出しているという姿が薄気味悪さを助長しており、どちらかというとコミカルな方向に走りやすいこの種のネタの中では異色であると言…

『振り返り』

結論から言うと、どこに恐怖の肝を持っていくかの部分で少々もたついてしまったという感が強い。怪異としては、ラジオの音が急に大きくなる、ごま塩頭のおっさんの霊が登場する、おっさんの霊が繰り返し同じ行動を取る、最後に思い出したくないほどの言葉を…

『指摘』

肉親の霊ということもあり、また内容がとんでもなくけったいなので、笑いの方向へ持っていったのは正解であると思う。またそれが上手く書きぶりに表れていると言える。 怪異の内容についてはけったいであると同時に、非常に希少性の高いものである。お経を読…