『超−1 怪コレクションvol.3』

「超」怖い話 超‐1 怪コレクション〈Vol.3〉 (竹書房文庫)

「超」怖い話 超‐1 怪コレクション〈Vol.3〉 (竹書房文庫)

2006年の怪奇本のベストと言えるのが、この『怪コレクション』シリーズと位置づけている。


元は『「超」怖い話』シリーズの新著作者を選ぶという目的でネット上で応募作品を公開していたのだが、その盛り上がりぶりが高じた所産と言うべきなのか、応募作品のベスト集として『vol.1』、さらに改編版も含めたベスト集として『vol.2』が上梓された。素人が書いたネット怪談が印刷物として商業誌化されること自体、驚異的な出来事だ。それに輪を掛けて、これらの作品群が本家である『「超」怖い話』シリーズと比して遜色がない出来栄えなのだ。ところが、『vol.3』はこれだけでは収まらない。応募者の上位ランカー達が新作を引っ提げて登場、3ヶ月連続で途轍もないレベルの怪談本にまみえることとなった。ここまで来れば、アマチュア作品などと言ってはおれないハイブロウぶりだ。


母体となった【超−1】自体、エポックと言える内容であった。老舗シリーズの新著作者を公募することも目を見張るものであったが、集まってきた作品群のレベルの高さは度肝を抜くものだった。「怪談作家」という職業人口が一気に倍増するのではないかと思わせるほどの収穫ぶりだった。一体どれだけの実力者が市井の中に紛れているのだと想像すると、鳥肌が立つ思いで作品を読みふけった。主催である加藤氏が“予想外”と述懐されているように、怪談界という小さなムラにとっては本当に“事件”としか言いようのない出来事であった。この余勢を駆って誕生したのが『怪コレクション』シリーズである。優れた怪談本であることは、当然といえば当然至極であろう。


さて『vol.3』であるが、何よりも一番の驚きは、ランカー諸氏がまだ進化を続けているという事実だ。どこで拾ってくるのだろうかと畏敬の念を感じざるを得ないネタの上質さは相変わらずである。そこに加えて、怪談を書く作法が向上しているのがまざまざと見て取れる。特に【A・Bランク】とされたランカー諸氏の充実ぶりは、彼らの作品を全て評してきた者から見ても、破格の進歩と言うべきである。誰がどれだけ伸びたということを挙げればキリがないが、これだけの短期間に複数の人間がレベルアップをした事実は、ある種の奇跡といっても過言ではない。まさに“習うより慣れろ”の格言を地でいくものだ。ただただ敬意を表するしかない。


しかし、手放しで喜んでいるばかりでは、能がない。賛否両論あるかもしれないが、ランカー諸氏の作品群を読んでいると、作法の向上が見られる分、個性と言える筆法が薄れてしまったように感じる。もっとストレートに言えば、本家である『「超」怖い話』のレベルに肉薄した分、本家によく似た構成・レトリックで書かれた作品が増え、均質化されたように感じた。多少筆が入っている可能性はあるが、【超−1】時代と比べるとそれぞれのランカーが持っていたアクが薄らいでいるのは確かだと思う。“血を受け継ぐ者”としては良いのかもしれないが、どうも集約されすぎたような気分でもある。尤も新聞記事のように“実話怪談はネタと情報が命”という趣旨であれば、文章が均質化されている方が読みやすいといえば読みやすいのだが…。ただ一人の“物書き”としての個性(これが東氏の唱える「文芸」の正体の一部分であると確信しているが)という点から見ると、その傾向でよいのかという疑念は生じてくる。あるいはこの『vol.3』の段階すら、上位ランカー諸氏にとっては成果の結実ではなく、進化の途上であるということなのだろうか。


2007年も【超−1】は開催される。その時に彼らに対する答えは出てくるのかもしれない。もう片時も目を離すことはできないのである。歴史は今、新しい扉を開けんとしている。