『日本怨霊紀行』

日本怨霊紀行 (英知文庫)

日本怨霊紀行 (英知文庫)

人の死にまつわる史蹟というものがある。例えば古戦場、処刑地、慰霊碑、遭難地、墓碑など、かなりの数があると思われる。その中には、公園などのように整備されて悲惨な面影の一片も残していない地もあれば、心ある者だけにひっそりと護られた地もあり、また心霊スポットとしてその名を轟かせる地もある。そういう場所を集め、その来歴を語ったのがこの本である。


とりあえず42ヶ所の史蹟を紹介しているのだが、それなりに知られたスポットであり、掘り出し物というべき場所はなかった。それ故に、この場所が如何に血塗られた土地であったかという説明も、歴史に興味のある者(特に戦国時代・幕末の史蹟が中心だから、比較的多いように思う)からすれば、常識レベルのものでしかなかった。ただしこのようなカテゴリーで編まれた本は『歴史読本』あたり以外では殆どないので、その点は評価できると思う。


しかしながら不満もある。どちらかと言えば歴史的な記述を多用し、史実の裏面史を説明しているという印象を持つこの本の著者が宗優子氏であることには、いささか腑に落ちないところがある。宗氏と言えば霊能者であり、氏が著者である限り、これらの史蹟で霊視などをおこなってオカルト的な解釈を施すのかと思っていた。だがそういう場面は皆無。本人の探訪記もそこそこに、とにかく史蹟の来歴を滔々と説明するだけであった。それならもっと歴史に詳しい、それなりに好適な人材があったのではないかと勘繰りたくなる。宗氏という人材であれば、もっと違った面で語れるのではないかという気がしてならない。(尤もこの本は氏のHPで展開していたコーナーが発端であるらしい。まんざら好い加減な人選ではないということなのだろうが。)


宗氏に関して言うと、最近の著作でのプロフィールがころころと変えられているように思う。この本では“日本史に造詣が深く、1年の大半を史跡巡りに費やす”とあり、他書では“心理カウンセラーの肩書きを持つ”となっている。要するに本のコンセプトに合わせて、プロフィールで「これを書くだけの能力あります」と言い訳をしているように見えるのである。メディア露出が多い著者がオカルト関連の本を書くことはプラス効果が期待できるが、ここまで次々と多方面に展開している状況にはあまり感心しない。そして一番良くないのは、それらの著作の大半が水準点を超えるにまで至っていない内容と言わざるを得ない点である。宗氏には、強烈な心霊写真を満載した、初期の頃の著作で勝負していただきたい。霊能者として売り出したのだから、やはり霊能者“らしさ”は維持していただきたいと思う訳である。