【0】あしあ(お)と

体験者の怪異に対する心理描写については、非常にきめ細やかに書かれており、追体験できるレベルであると言っていいと思う。
おそらく怪異そのものの弱さをカバーするために、意識的に積み上げていったものと推測する。
構成についても同様の意見であり、とにかく弱くてありきたりの怪異をどのように読み手に見せるのかについて、相当腐心しているのが手に取るように分かる。
そして一定の評価が得られるだけの成功を収めていると判断できるところにまで、仕上げられていると思う(小説的であるという批判もあるかもしれないが、体験者の心理までも克明に書くとどうしてもその呪縛から逃れることは至難の業であるという意見である。それ故に、この作品のように意識的に心理描写優先で書かれたものは、それなりの基準で見るべきだと思う)。
しかし、一番最後の落としどころの怪異で、手痛いミスを犯しているのである。
“何者かによる無数の裸足の足形”が全身に痣となって浮き出ているというオチなのであるが、この足形のイメージが非常微妙になってしまうのである。
まず大きさがどのくらいなのかという部分で、引っ掛かってしまう。
大きければ“無数”という言葉は当てはまらないし、小さければ本当に“裸足の足形”かが認識できたのか、あるいは“足跡マーク”が全身に付いているという、かなり滑稽なイメージになってしまう。
いずれにせよ、もっと明瞭な説明が必要だったのではないだろうか。
さらに言えば、最初に聞こえてきた足音と身体に付けられた足跡とのイメージが、かなり異なる。
これだけの構成の妙を見せることの出来る書き手であれば、このイメージの相違に気付いて、何らかの措置を執って然るべきではないだろうか(今のままでは、どちらかと言うと、書き手が勘違いしているのではないかという疑念の方が先走る)。
高度な技巧を施すほど、軽微なミスが大きく見えてくるものである。
ということで、敢えて可もなく不可もなくという評価で落ち着かせていただいた。