『怪異・妖怪百物語』

怪異・妖怪百物語 -異界の杜への誘い-

怪異・妖怪百物語 -異界の杜への誘い-

日文研の「怪異・妖怪伝承データベース」は時折利用させてもらっている。このデータベース作成にあたった研究員が新聞紙上でリレー形式で書いたコラム集である。いわばアカデミックな民俗学の最先端で頑張っている人達が、情報収集を通して興味を持った“こぼれ話”を書いているわけだ。本の方には総元締めである小松和彦先生が編著者としてクレジットされているが、先生の意識が大きく反映された内容ではないようである。


やはり専門的に文献を漁っている人達の書いたものである。そこそこ有名なエピソードを紹介程度に書いているのとは全くレベルが違う。「蛇の道は蛇」ということであろうか、なかなか興味深い話が満載である。新聞掲載のコラムと言えば、専門家が噛んで含むように書くというパターンが通常だと思うのだが、そういうことにはお構いなしで、まさに自分の興味の赴くまま話題を展開していると言っていいだろう。僕のような者からしても、これぐらいマニアックな話が展開している方が面白い。ビギナーでも十分楽しめると思うのだが、知識があればあるほど執筆陣の目の付け所の鋭さが分かるように感じる。


取り上げるトピックも興味深く、また着眼点も鋭いのであるが、如何せん文章が硬い。洒脱なコラムというよりは、研究発表の余録のようである。研究者という立場であるから、どうしても硬い文章になりがちである。文章自体が長くないから読むのが辛いという訳ではないが、文章を生業とする人達の文と比べると艶がない。データベースの補注を読むよりはくだけているが、というところだろう。


その代わりといっては何だが、この本を上梓する際に加えられたイラストが良い味を出している。妖怪系の本にはイラストが付き物であるが、いずれも独自の雰囲気を持った絵である。やや硬くなりがちな文章に彩りを加えるだけでなく、読みやすさにも多少なりとも影響を与えているようである。上手くバランスが取れている。


最後になるが、内容に比して価格が高いように思う。この程度の文字数のコラムとイラストであれば、せめて新書本サイズにして、もう少し価格を落とした方が良いのではないだろうか。この種の作品の流通ぶりから考えると、マニアだけが買うような内容の作品ではないように感じた。