『水木しげるの日本妖怪紀行』

水木しげるの日本妖怪紀行 (新潮文庫)

水木しげるの日本妖怪紀行 (新潮文庫)

水木御大のイラストと解説文に村上健司氏の探訪ガイドが付くという、これだけ見ればかなり贅沢な作りの本だ。紹介されている妖怪は全部で49体。アイウエオ順で紹介されており、まず最初に見開きで水木御大のイラスト、次に御大の解説文(これは書き下ろしというよりも過去に書かれたものを再編集したと思われる)が2ページ、そして村上氏の探訪ガイドが2ページ、1体の妖怪につき6ページの紹介という構成になっている。


一読した感想は「おいしいところだけを集めたせいで、結局すべてが中途半端になってしまった」であった。


腰巻のキャッチは“オトナの妖怪図鑑”であるが、妖怪名をアイウエオ順で並べているからその意図があると見なしてよいのだが、さすがに49体ではあまりにも貧弱である。図鑑であれば、せめて100体に近づける必要があったと思う。またここで選定された妖怪が、どのような基準で抽出されたかがかなり曖昧である。“紀行”というタイトルから、多分具体的な伝承の跡が残されている妖怪だけが取り上げられているかというとそうとは限らないから、余計に不明朗感を強く感じざるを得ない。


そしてもう一点は“紀行”とタイトルにあるにもかかわらず、ガイドブックとしては不親切であるということ。村上氏の代表作の中には『妖怪Walker』という妖怪関連の遺跡探訪の名著があるのだが、それと比べるとガイドブックとしての機能性に欠けるとしか言いようがない。大まかなアクセス方法は書かれているが、ガイドとなるべき地図などは一切ない。さらに困ったことに、上に書いているように、紹介されている妖怪によっては具体的な探訪地が定かではないものが散見される。“紀行”であるのだから、実際に訪れて何らかのモニュメントがあるものに限定して紹介して然るべきだろう。


結局のところ、水木御大のイラストと文章がメインであり、そこに“紀行”にある程度耐えられるという条件を付けて妖怪がセレクトされ、タイトルはその抽出条件をあてているのであろう。そのためにこの本のメインに据えられたものが判然としなくなったように感じる。要するに、図鑑としても探訪ガイドブックとしても特化し損なった作りの本としか思えないのである。やっつけ仕事とは言わないが、著者や出版社の小遣い稼ぎ程度の評価しかできない。文庫本だからといって、こういう中途半端なコンセプトで妖怪紹介をしているようでは、せっかくの良質の素材が泣くというものだ。ビギナーもマニアも納得させる本を作るのは難しいと思うが、とにかくもったいないという気分である。