『本当にあった呪いの話』

本当にあった呪いの話 (ハルキ・ホラー文庫)

本当にあった呪いの話 (ハルキ・ホラー文庫)

2001年に出版された単行本の文庫化。大幅加筆修正と新作有りと明記されているが、実際のところは、内容や構成はほとんどいじられておらず、表記上の細かな修正だけのようである。そして新作も1話だけ(かなりインパクトのあるもの)しかない。旧版もいまだに版元で手に入れることも可能である。あまり“幻の名作”という感じはしない。


呪術が絡んだ(と思われる)事件を集めてルポタージュ形式でまとめたという風な作品であるが、この種の話は内容が内容だけにあまり具体的な記述を伴った“事件”として扱われることが少なく、むしろ具体性をぼやかした“怪談”として語られることが多い。それ故、旧版から「見落とすべきでない作品」という印象が強い。呪術の絡んだ“事件”として最も有名な「某神社の藁人形」をはじめ、僕が新聞紙上で読んだ記憶のある“事件”もいくつか散見できる。その点では、個人的に信憑性の高い内容であると見ている。


旧版のタイトルには『陰陽道』という言葉が躍っているが(ちょうど安倍晴明ブームのまっただ中だった)、文庫化にあたってその言葉を削っている。内容を読めば分かるが、取り上げられているエピソードは呪術にまつわるが、正統な陰陽道だけではなく、藁人形などの民間伝承的呪術から寺院系の祈祷や供養までかなり雑多なものが並べられている。ある意味日本的な呪術のあるべき姿なのかもしれないが、もう少し系統別に分類して掲載しても良かったようにも思う。加筆修正をするならば、エピソードの配列も再考していただいた方が、知識に裏付けされた説得力が生かされただろう(旧版には呪符などの図が掲載されており、それなりに知識欲をも満足させる構成となっていたので、著者も結構な人物であるという印象だ)。


それと同時に、まえがきと関連ガイドの部分が、旧版とほとんど変わらず“陰陽道”尽くしになっている点は非常に気になる。初めてこの本を手に取った読者からすれば、“呪術=陰陽道”という誤解を与えかねない作りになっていると言える。せっかくタイトルから『陰陽道』を省いたのだから、思い切って修正を加えた方が良かったと思う。やや中途半端な改版と突っ込まれても致し方なかろう。


他の類書でも見られないエピソードが多くつまっているので、関心のある人は買いであろう。読んでがっかりではないと保証できるレベルである。