【−1】アパート

怪談を書く経験がまだ浅いという印象を受けた。
まず描写の部分で(?)を付けることからして、怪談話が信憑性を損なうことがどれほどのダメージなのかが解っていないという雰囲気である。
そして一番いけないのは、連続する怪異の繋げ方で“思わせぶり”な記述ができていないために、かなり損をしている。
最初に見た怪異に対して明確に“夢”と書き表している。
“夢だと思い込む”であれば良いのだが、単に“夢だ”と書いてしまうと、体験者自身が怖がっていないという印象を読者に与えてしまうことになり、それ以降の怪異に対する印象が薄まってしまう。
そして2度目の怪異(足だけではなく全身が降りてくる)の記述が描写ではなく簡単な説明だけで終わってしまっており、さらに肝と言うべき顔の登場に移る際にも「なんとなく」危険を感じただけで、全体として緊迫感がない。
しかも全身が現れる怪異の時にしっかりと禍々しさの全てが“あやかしの顔を見る”ことにあるという予兆を書き切れていないために、振り返ったところに顔があるという肝が十分に活かされていない。
予定調和的な書き方はまずいが、連続する怪異の場合、ある程度の“含み”を持たせるような流れを作っていないと、それぞれの場面がばらけている印象が強くなる。
そのあたりの関連付けが言葉によってできていないために(これは体験者の感情の流れにも言える)、全体的に平板で起伏を感じることができない作品になってしまった。
恐怖という感情を作り出すのが怪談であるならば、肝の部分に力点を置いた、うねりのような展開というものを心掛けるべきだろう。