『「超」怖い話 怪歴』

「超」怖い話 怪歴 (竹書房文庫)

「超」怖い話 怪歴 (竹書房文庫)

この本を読み終えるまでに何度驚愕しただろうか。とにかく半端ではないレベルの怪談話、しかもそれがソロデビューの作者の書き下ろし、とどめにはその作者のプロフィール……まさに【怪談の神の申し子】の降臨としか言いようがない。


久田氏の前身である高山大豆氏ほど、あらゆる意味でこの数年の怪談界をにぎわせたキャラクターはいないだろう。その発端は途方もない実力。全く表に現れない謎の人物というだけでは、決してここまで話題の人になることはなかったはずである。常人を圧倒する力を持った人物の前では、ひたすら恭順するか、ひたすら反発するかしか選択の余地がないという話を聞いたことがあるが、まさにその状態であったように思う。振り返れば、怪談の世界に身を寄せる者の多くが何かしら恐ろしいパワーを感じ取っていたのかもしれない。だがその【超−1/2006】での断然の戦績をも凌駕する内容なのが、この本である。


この本は、一人の体験者の連続する怪異体験を複数集め、それを軸として単発の体験談を織り交ぜて構成されている。特に体験者の名前が章立てに使われているケースの体験は、ほとんどが“大ネタ”と呼ぶに相応しいレベルの内容である。しかも救いようのない因果話からシニカルな笑いをとるもの、ノスタルジックな印象を持つものまで多種多様なジャンルの怪談が詰まっている。これらが全て最近集まってきた話というのだから、驚き以外の何ものでもない。


さらにそれらの怪異を生かすかのように編まれる文章は、やはり冴えている。昨年の【超−1】大会の講評で「文章スタイルを修練して完成させた」旨のことを書いたのだが、これは完全に読みを外していた。だがそれでも納得がいかないと思わせるほどの筆さばきである。一番すごいと感じるのは、どうすれば怪異が引き立つかをまるで呼吸するかのごとく自然に書いていると思わせる点である。だから読んでいて怪異に対する違和感がない。これがどのパターンの作品でも出来ているのが、並の新人ではないと思うのである。


もう一つ、昨年の講評で「この作者は共著者だけではなく、単独の怪談作家として起用した方がいいのではないか」ということを書いておいた。図らずもこの予測は的中し、こうして単著デビューも果たしたわけであるが、個人的想像を遙かに超える魔力をまざまざと見せつけられた格好となった。正直な感想であるが、あの『新「超」怖い話6』や『新・耳袋第四夜』と同等に語られるだけの資格を持つ作品として位置づけてもいいと思っている。むしろこれが単独シリーズで続々と発刊していくことになったら…と考えるだけで空恐ろしい気分になる(その可能性があるから、もっと恐ろしいのであるが)。


現段階で言えることは、昨年の【超−1】大会は大成功であったということ、そしてモンスターはモンスターであるということである。“運命の子”久田樹生の存在自体が怪異と言っても差し支えないだろう。