No.54

2月と5月に集中して28作品の応募。
大会最高得点の『逢魔』をはじめ、非常に質の高い作品がずらりと並んでいる。
この作者の印象は、一言でいえば「安定感」。
しっかりした筆力で丁寧に文章が書かれているので読みやすく、文章そのものの表現力や構成力といったところで引っかかる率が少なかった。
またネタ自体も洗練されていて、同定された作品を見ると、タイトルだけでストーリーを思い出せる作品がほとんどであった。
しかし安定しているといってもオーソドックスな作品だけではなく、『1991年』『旅立ちの朝』『守備範囲』といった怪作も書けるので、様々なジャンルの怪談に対応できるのではないかと思う。
問題は評点の低かった作品にある共通点である。
低い評価を受けた作品のほとんどが、大会最終盤の5月10日以降に公開された作品である。
『殿様蛙』『やるせない』『怪談』『蟻地獄』あたりは正直、ネタだけを抽出すればもっと得点が伸びてもおかしくない内容であると思う。
それが出来なかったのは一概に講評コメント数が増えなかったというわけではない(5/17公開の『磯に棲むもの』は70点台の大ネタになっている)。
それぞれの作品を見ると、やはり安定的であった文章がかなりメロメロになっている印象を受ける。
舌足らずで誤解を招くような表現があったり、整合性に欠けるような表記が散見されたり、構成面で少々もたつきを感じる部分がいくつか見受けられた。
文章の練り込みが足らず、また時間的に焦って見直しが出来なかったと想像に難くない。
多作化という要素に関してかなり不安な面が残ったと言えるだろう。
これをいかにして克服するかが、今後の課題になることは必至である。