『本当にいる日本の現代妖怪図鑑』

本当にいる日本の「現代妖怪」図鑑

本当にいる日本の「現代妖怪」図鑑

表紙を見るからに、実に胡散臭い本である。やはりと言うか、さすがと言うか、山口敏太郎氏らしい味の出し方をした本である。当然表紙だけでなく、中味の方も相当怪しさ満載と言ったところである。表題に“本当にいる”と書いておきながら“創作妖怪”と明記してみたり、“日本の”と書いておきながら最後の方に韓国や中国での怪異を紹介してみたり、“現代妖怪”と書いておきながら戦中のあやかしを出してみたりと、そのあたりのブレっぷりは相変わらずである。だが、この筆者でなければ絶対に取り上げないであろうカテゴリーであるだけに、真骨頂と称してもいいのではないだろうか。

現代妖怪を集めた本を上梓した著者の思想的背景については、この本のまえがき・あとがきをはじめコラムなどでこれでもかとばかり自己主張している(ここまで書く必要はないといつも思うのだが)。どこまで賛同するかは個人の問題ではあるが、これらの妖怪が現代人が生み出した“記録”として保存される機会を与えられたことは、非常に重要であると感じている。今の妖怪研究家が取り扱う古典的妖怪は、結局のところ、文書や書画によって“記録”されたために生き残った幸運な存在と言えるだろう。単に人口に膾炙されただけの妖怪の殆どは多分死滅しているものと思われるし、最終的には目に見える形で記録されなければ消滅する運命にあるのは間違いない。この現実は、これほどまでに情報があふれかえっている現代においても同様である。

この本の中で紹介される怪異の殆どは他書からの引用や運営するサイトに寄せられた情報であり、実際に著者自らの足で稼いできたレポートとは異なる次元で集められてきたものである。だがこれをパクリであると弾ずることはお門違いであるだろう。この本が編まれた目的は、様々な場所で語られてきた現代妖怪と呼ばれうる存在を網羅して記録することにあるわけで、しっかりと引用記録がなされていれば問題ないと思う。むしろ個人的に問題であるのは、引用されている文献の数がまだまだ不足しているという印象であり、もっと多くの書籍にあたるべきであったという点である。掘り起こそうと思えばまだまだあるのではないかという印象である。

どのようなジャンルの研究においても、現在進行形の内容に対する評価は難しい。この本もその部類に入るものであり、同じ世代で生きる者からすれば、単なる噂の羅列にすぎない内容がダラダラと書かれている本であると言ってしまってもおかしくない。今はパラパラと適当なページから読んで、知っている噂とそうでない噂という感じで、気晴らしで読む程度がちょうどいい塩梅なのかもしれない。資料としての価値は、少なくとも10年ほど漬け込んでおいてからのお楽しみということで。