『妖怪・神様に出会える異界』

柳田国男は「妖怪とは零落した神である」と唱えたわけだが、この本で紹介される妖怪はかなり神様に近い存在であり、神様の方は化け物っぽいプロフィールを持つ。妖怪の定義は非常に難しいのであるが(個人的には妖怪とは“定義”の範疇を超え出る存在であるから妖怪であって、まさに【自然科学の補集合】的存在なのであるが)、この本では畏怖や祈念の対象としての妖怪を主に扱っていると言っていいだろう。いわゆる口承レベルの妖怪や図案化された妖怪といったものを極力廃した、より民俗学的アプローチが可能な妖怪をずらりと並べている。

信仰と密接に繋がる妖怪・神様が多数紹介されているが故に、神社などの特定の探訪地が紹介されることが多い。これがこの本の一番おいしいところである(タイトルに偽り無しと言うべきだ)。また紹介されることが殆どないものを結構収録しているので、その点でも個人的になかなか重宝な存在になりそうだ。

ただし難点もある。まずオールカラーということで、一般的な新書サイズの本であるにも拘わらず、1200円(しかも税別)という高額である。さらにほぼ同時期に講談社から出された『図説日本妖怪大鑑』とかなりかぶってしまっている。モノクロ図版であるが、原画・解説文とも全く同じであり、しかも『大鑑』の方が紹介されている妖怪の数が多いし、値段も880円と格安である。水木教信者は当然両方とも買わなければならないが、民俗学的興味の人は値は張るが、こちらの方がしっかりと分類されているだけにお奨めである(ちなみに純粋な妖怪ファンは『大鑑』の方を薦める)。