『幻想都市伝説』

幻想都市伝説 (コスモブックス)

幻想都市伝説 (コスモブックス)

一言でいってしまえば“最近の怪談本スタイルとは一線を画する、昭和時代のオカルト恐怖本の体裁を堅持した一冊”と評すべきだろう。いわゆる“文芸”としての怪談本とは対極にある、あらゆる情報(それが本当の体験談であろうが、単なる噂の域を超え出ない内容であろうが、選別基準はエンターテイメント的発想である)をぶち込んだ内容の本である。良くも悪くも胡散臭さがにじみ出てくる。それはかつて中岡俊哉氏や佐藤有文氏などがありとあらゆるミステリーの話題を提供していた雰囲気を醸し出している。だからそういうテイストの本に慣れた人間とそうでない人間とでは、印象も大きく変わってくると思う。

慣れている人間からすれば「こんなものだろう」という感じで特に違和感はないのだが、昭和時代の怪奇本にふれる機会の殆どない人間にとっては、読み捨て雑誌のネタレベルという印象が強くなるだろう。あるいは他の怪談作家のようにストーリーに仕立てる訳でもなく、ただひたすら怪異の内容紹介に徹する書き方は、インターネットによる情報取得が可能な時代では物足りなさを感じる部分も多いかもしれない。だが、こういうタイプの書籍こそがある意味オカルト的な世界への扉となって、足を踏み入れる人間がそこそこあるという事実も確かにある。まとまった情報紹介本の存在は、決して凡打の山を作るだけのものではないと思うのである。

“都市伝説”のカテゴリーが変容してきている昨今、この名称を使って手広く怪異情報を紹介するという発想はなかなか興味深いものがある。またこういう昔ながらの味を出しているライター(敢えて“作家”とは言わない)も、いろいろな意味で希少価値が出てくるようにも感じる。そういう点では、山口敏太郎氏も徐々にポジションが定まってきたようである。ただこの本でも言えることなのだが、結構おいしいネタが揃っているにもかかわらず、あれもこれもと欲張りすぎて“闇鍋”状態になっているのが難点である。やはりある程度のカテゴリーの特化は必要だと思うし、いくら昭和時代のテイストを維持すると言っても同じ手法の繰り返しでは、今の読み手の感覚とずれてしまえば受け入れてもらえなくなる。特に噂話と実話怪談(体験談)とを巧く分別しないと、それぞれの持っている味が相殺してどっちも付かずになっていると思う。“異端児”であることには異論はないが、それを逆手にとって開き直られても困る訳である。せっかく良質の情報源を持っているのだから、そのあたりは時流に応じたネタ選択も必要であるだろう。

最後になるが、なぜか価格が高い。こういうタイプの本は“入門書”としての価値が一番であると思うので、やはり安価で買ってもらいやすいものにすべきだ。有料携帯サイトからのネタ流用もあるので販売戦略的なこともあるのかもしれないが、せめて新書本の価格帯にまで引き下げないと需要はないかもしれないと思ってしまった。