『うわさの神仏 其ノ三』

うわさの神仏 其ノ三 江戸TOKYO陰陽百景 (集英社文庫)

うわさの神仏 其ノ三 江戸TOKYO陰陽百景 (集英社文庫)

あやかし探訪のエッセイとして非常に高く評価しているシリーズの3作目である。評価している一番の理由は、おどろおどろに徹している訳でもなく、かといってオチャラケにも偏らず、作者である加門七海氏自身が面白がって探訪している様がよく出ている点である。今回は“お江戸”のエリアにターゲットを絞り込んでの案内であるが、やはり楽しげに筆が進んでおり、読んでいる側も気分良く読める。仰々しくいかめしいあやかしの紹介も良いが、こういう感覚のものがあっても良いと思う。
しかし文章が軽いからといって、中味の薄いものにはなっていない。セレクトされているポイントをざっと見ても、誰もが知っている場所から、ちょっとばかりディープなお奨めポイントまで、なるほどと思わせるものが揃っている。そして紹介文の中に散りばめられた蘊蓄の数々もさりげなく書かれているが、非常に高度な内容に関するものもあって、こちらもいい感じである。ある意味、東京のあやかし探訪入門書、あるいはガイドブックとしての価値も十分あると言えるだろう。
実際にその地へ足を運んで、加門氏の書いた文章を丹念に追ってみるのも一興だと思う。また紹介された地に関する蘊蓄をまとめ、それから探訪するのもよいかもしれない。いずれにせよ、この本の場合、読むだけで終わらせるのは勿体ないというのが正直な印象である。また行ってみようかと思わせるような取っつきやすい雰囲気を、この本は出していると思う。特に東京というエリアである。用事で訪れたついでにちょっくら足を延ばしてみてはどうであろうか。掲載されたスポットの殆どに足を運んだことのある私からも、お奨めのポイントばかりだと付け足しておきたい。