『X51.ORG THE ODYSSEY』

X51.ORG THE ODYSSEY

X51.ORG THE ODYSSEY

2005年7月。私は北海道の爽やかな風に乗って、車を走らせていた。国道から脇道にそれると、もはや対向車もまばら、後続車の影もない。そして道なりに走らせた先に目的地はあった。何の変哲もない、ごく普通の寺院。黙って本堂にあがるとご本尊に一礼し、その脇に置かれた人形に向かう。……写真やテレビで幾度となく見たその人形は、想像以上に小さかった。そして汚れてはいたが、写真で見るより可愛らしいと感じた。「写真を撮られるのを嫌がる」という意味がよく解った。さらに以前に見た写真よりも、口元がやや閉じられているようにも見えた。そして髪の毛も、思ったほどザンバラという訳でもなかった。それでも子供の頃に強烈なインパクトを持って受け入れた“本物”と対面しているその時空間は恐ろしいほど濃密であったと思う。まばたきを忘れるほどその人形を見つめ、記憶の断片が欠けないように網膜に焼き付けようとした。…これが【髪の毛が伸びる、お菊人形】を見たときの記録である。

なぜ個人的体験を書評の最初に持ってきたのかというと、この本自体がまさに私の体験をそのままスケールを大きくした趣旨内容であると言って間違いないという確信があるからである。子供時代にテレビで見たあやかし(本書ではUFOやUMAが中心だが)に対する好奇心が高じて、現地で実際に見なければ気が済まないという衝動に駆られた人間が書いた本である。それは単なる情報紹介の書ではない。現地へ行った者でなければ感じることの出来ない雰囲気、そしてそこから導き出される考究は瞠目すべき内容であり、まさに“体験至上主義”の極致である。そしてその裏打ちによる説得力は、たとえ結論めいたものがない状態で閉じられたとしても、過去において色々と書き綴られてきた“事実”よりも遙かに重みがあると思う。ぶっちゃけて言えば「やったもん勝ち」である。

この本の白眉は何と言っても“北米編”である。他の編では論考が中心となってしまっている感が強いが、この北米編はまさに“決死”のルポである。この何とも言えない臨場感あふれる記述は、現地視察をした者ならではの視点に立った面白さがある。客観的に書けば書くほどこの土地の特殊な立場が如実に現れ、単なる情報だけでは汲み取れなかったニュアンスといったものが明瞭に読者にまで伝わってくる。まさに現地取材の醍醐味を余すところなく出していると思う。またこれをサポートする形で掲載されているカラー写真も素晴らしくいい雰囲気を出してくれる。あやかしに直接関係のない風景や人物写真が、心憎いまでに現地の印象を効果的に伝えていると言えるだろう。

対象があやかしであるためにかなり限定された読者層になるかもしれないが、紀行文としての面白さも兼ね備えていると思う。世界を股に掛けてあやかしを探求する“大馬鹿野郎”は最も珍奇な人種であり、希少価値も高い訳である(私のような“国内版”探求者はまだ数は多いと思うのだが)。矢継ぎ早に続編という訳にはいかないだろうが、今後とも丹念な取材を敢行していただきたいものである。