『京都妖怪紀行』

京都妖怪紀行―地図でめぐる不思議・伝説地案内 (角川oneテーマ21)

京都妖怪紀行―地図でめぐる不思議・伝説地案内 (角川oneテーマ21)

今までありそうでなかったコンセプトと言うべきか、京都のあやかしを探訪するという趣旨で編まれた本である。発行のタイミングを考えると、先だってあった【世界妖怪会議】で京都へ行く人は必携であったと推察する。

本の体裁は、あやかしの探訪地に関する蘊蓄を並べ、きちんとした交通アクセスを明記、そしてわかりやすい地図を巻末に配する(これは類書と比べると明らかに精細な地図である)という、実に明快なコンセプトによって作られている。まさにこの1冊を片手にあやかしを探訪せよと言わんばかりの作りである。しかもこの手の本では最も信頼の置ける村上健司氏が著しているのであるから、買って損はないところである。

個人的事情として、京都はホームタウンであるが故に、この本で何か新しい情報を得たということはない。むしろ非常にオーソドックスな妖異関連の物件を手際よく集めているといった印象である。「過不足なく」という評が一番適しているだろう。この1冊あれば殆ど迷うことなく、妖怪・怪異関連の物件を押さえることが可能である。ただし掲載されている全ての物件を回るには、少なくとも3日はかかると思うが。

残念なことに、京都の妖怪はメジャーな奴も多いが、数は大概知れている(純粋に“妖怪”となれば、この本でも1章だけで事足りているわけだ)。怪異関連についても、思いの外少ない。京都のあやかしの醍醐味は神仏にまつわる奇談(特にお地蔵さん関係)であり、この伝承まで手広く書いていくと、結局1冊の新書本では無理がある。あやかしのスポットを限定して紹介を厚くした点は評価できるが、これで京都のあやかしを語り尽くしたわけではないということである。京都のあやかし入門編というレベルで見た方が無難である。ディープな探訪者にとってはおさらいレベル、あるいは物足りないガイドブックということになるだろう。