『萌えわかり! 妖怪変化ビジュアルガイド』

購入するのにかなり逡巡した本である。表紙を見ればわかるが、中年オヤジが買うたぐいの本ではない。妖怪が他のオカルトジャンルよりもビジュアルに馴染みやすいものであるはずだが、ここまであからさまに“萌え”系キャラで迫ってこられると、別の趣味の人たちと間違われてしまいそうになる(そういう種類の人たちを否定する気はないが、個人的に敬遠している訳なので)。民俗学系列の妖怪ファンはかなり戸惑ったのではないだろうかと想像する。

中味の方であるが、実は結構オーソドックスな作りである。章立ては【山・水・里・家】という従来の棲み分け概念を踏襲したものになっており、そこで紹介されている妖怪の種類もそれほどマニアックなものは少ない。むしろ“入門書”という印象の方が強い。ただしイラストがイラストだけに(表紙のキャラがコスプレした姿のイラスト以外にも別の雰囲気のものもあるが)、水木御大以来の“伝統的”妖怪イメージとはかなり隔たりがあるように感じる。やはり、ネット上で活動している最近のアニメ調妖怪同人諸氏の系統に属しており、私のような頭の固い人間は少々面食らう部分がある。別に石燕をはじめとする江戸期の絵師が描いた妖怪のイメージが絶対的であるとは思わないが、どうしても違和感が先に出てしまう。特にコスプレを意識したイラスト(要するに生身の人間が創意工夫して妖怪変化を演じることを想定して描かれたイラスト)を大きく取り上げるという感覚はどうしても解せない。まあ、これが“萌え”の概念と密接に関係あるのであれば、致し方ないという感じであるが。

イラストについてはかなり違和感を覚えたのであるが、文字による説明部分はなかなかのものという感想である。登場するキャラが巧く性格分けできており(各章のイントロで提示されるマンガストーリー部分の効果でもあるわけだが)、それらのキャラが各妖怪の紹介をセリフ仕立てで解説する。全体の進行役と解説役が分かれており、その隙間に茶々を入れたりボケてみたりと変化をつけて紹介が進むため、読みやすさの点では評価できる。ゴリゴリと説明一本槍で攻め立てるのを主としている身としては、目から鱗という部分がある。しかしこの紹介説明であるが、コントっぽい進行ではあるが、単なるオチャラケではない。蘊蓄に関してはお子様相手の基本事項だけではなく、かなり突っ込んだものも散見できるので、ただの“萌えキャラ”だけが売りのレベルの本ではない。それなりに妖怪研究をしている人間がタッチしているのは明白である。

そしてその妖怪そのもの以上に優れているのが、アニメ・特撮関連の蘊蓄。コラム形式でその蘊蓄を駆使して、テレビ・映画での妖怪の変遷を語っているのは、なかなかマニアックであり面白い趣向である。しかし、昭和時代のアニメ蘊蓄の情報源が、登場する女子高生キャラの父親のものであるというのは少々へこむところである(その蘊蓄をリアルタイムで知っている私の立場にもなってくれと言いたい)。

こういう雰囲気の本(特に表紙)は萌えキャラのイラストでごまかして、実際は中味の薄いどうしようもない種類のものが見受けられるが、それらとは完全に一線を画する内容であると言える。だが、それなりに本格的な本であると思うのだが、ターゲットとしている層があまりはっきりと見えてこない。萌えキャラ好きの人種であれば、多分ネットなどで収集できる範囲の情報なのではないだろうか。またコアなマニアにとっては、萌えキャラの存在が吉と出るか凶と出るかかなり不明な気がする。どうしても“萌え”関連の情報に疎いので、どのように作用するのかは明言は避けておきたい。