『魔よけ百科』

魔よけ百科 かたちの謎を解く

魔よけ百科 かたちの謎を解く

なかなか面白い本である。体裁や価格などを推察すると、どうも自費出版された本であると思うのであるが、贅沢に写真を使い一つ一つに細心の注意を払った記述を施しているため、資料性の高いものになっている。著者は長年この種のものを探求しており、短い文章の中にそれらの知識を凝縮させている。私個人がこの種のものに対する知識が欠けているせいもあるかもしれないが、とにかく驚きの連続である。まさかと思うものに魔よけのアイテムやまたシンボルと言えるものが使われていること。それらの魔よけのアイテムはバリエーションによって違うように見えているが、実は同じカテゴリーによって結びつけられている事実。特に類似のカテゴリーで結びつけられるシンボルの存在は、意表をつくものであるが故に新鮮であり、かつ著者の合理的な文章によって納得させられた。

また日本のみならず、海外にも魔よけのシンボルのルーツを求めており、それが日本に伝播された時にどのように変化したかを知るのも非常に有意なことであった。魔よけということでどうしても陰陽道や風水関連のものが取り上げられることが多く、また著者の専門である城郭における魔よけの刻印が比率的に大きくなっているが、それでも実地に足を運んで確認して撮られた写真が興味を引き出してくれる。まさかこんなところに魔よけがあるのか、と感じ入ることが多かった。理論的な呪術だけではなく、ここまで明瞭に実地例が示され、これを公に公開しているところがいたく気に入った次第である。

全体の体裁であるが、1アイテムに関して2ページ見開きで、カラー写真とシンプル且つ説得力のある説明がある。それにもまして素晴らしいのは、ランダムにアイテムが紹介されているのではなく、アイテムのカテゴリーが非常に有機的に並べられている点である。これによって独立しているはずの魔よけのアイテム・シンボルが形を変えて人々の生活の中に浸透している様がよく理解できるわけである。単純に魔よけという実務的な部分だけはなく、意匠・工芸品としてビジュアル的にも面白いところがあると思う。