『超-1怪コレクション 夜明けの章』

超-1 怪コレクション 夜明けの章 (竹書房文庫)

超-1 怪コレクション 夜明けの章 (竹書房文庫)

今年の【超−1】終了直後に、確かこんなことを書いた覚えがある。「去年は3冊出せたが、今年は1冊がやっとだろう」。昨年の大会は“本家”の後継者選びということで、各作品とも“恐怖”へのベクトルが明確に打ち出されていたために上質な怪談が自然と集まっていたと言える。だが、今年の大会はそういう方向性が取っ払われた感が強く、怪異の質も作者によってまちまちであり、単純に“恐怖”というものさしで測りきれなかったために何となく雑然とした印象が強かったのである。それ故にベスト版を編むのはかなり難しいのではないかという推測から「今年は1冊」という言葉を発したわけである。

前作の『黄昏の章』がそのベスト版であるのに対して、本作『夜明けの章』はかなり“くせ者”が揃っている。ずらりと並んだタイトルを見れば、大会期間中の講評においてかなり評点がばらついたものが多いことに気付く。手放しで凄いとまではいかないが、凡百の怪談話とは一線を画するという内容である。あるいはネタとしては面白いが、純粋な恐怖へのベクトルを持たない作品群である。やはりこれらの作品をバッサリと切り捨てることを、怪談の神は許さないというところなのかもしれない。

本作に採用された作品群の傾向として挙げたいのは“劇的”というカテゴリーである。この言葉は、怪談にとって諸刃の剣であることは言うまでもない。当然実話であることが前提であるが、あまりに出来過ぎたシチュエーションであること、またあまりに突拍子のない展開でリアリティーを失うということ、これらの怪談として“眉唾物”であると受け取られかねないような危険なニュアンスを持つという意味も“劇的”という言葉は含んでいるわけである。ストーリーとしては読者をグイグイと世界へ引きずり込んでいく強烈なインパクトを兼ね備えているが、逆から言えば、荒唐無稽という評も噴き出してくるのである。結局のところ、手放しで評価するのが難しい理由はここにあると言えるだろう。とにかく普通の怪談話としてもあまりにもとんでもない内容の作品が並んでいるのである。

正直、掲載されて当然という作品もあれば、「何故だ?」と考えてしまうような作品もある(ただしその多くは原作に手を加えて、ある程度納得のいく着地点を見つけているが)。一応「傑作選」とは銘打たれているが、むしろ大会全体を見渡した上での【MIP】的な作品を網羅したように感じる。一人の作者だけでは、こういう感じで拡散するベクトルを作り上げることは困難極まりないだろう。コンペティション形式で集められた作品群のまとめとしては、それなりに成功しているように思う。玉石混淆と言うと失礼な表現になるが、【超−1】の持つ個性が発揮された、奥行きのある内容であると言えるだろう。『黄昏』と『夜明け』の2冊を並べて読めば、まだまだこの大会が存在する意義はなくならないと断言できる。