【+3】にごり水

前半部分がかなり冗長に感じるのであるが、これは作者の意図の反映であると見ている。
この前半部分であるが、有名都市伝説“三本足のリカちゃん人形”のパターンを踏襲したスタイルであり、敢えて子供目線を意識した書き方に徹しているように感じる。
それ故に、体験者が存在するリアリティーのある書き方ではなく、むしろ紋切り型になっているという印象が強くなり、恐怖とも不思議ともどっちもつかずのような冗長さに繋がっていると思う。
だが、これを作者の意図であると推測する理由は、ここに書かれた怪異がハッピーエンドで締め括られるものであるからである。
作者は、結末を語るための前置きを禍々しいものにはしたくなかったために、わざと“学校の怪談”風の子供目線からの語りを選択し、極力不気味な感触を薄めようとしたのではないかと思うのである。
当然、怖がらせるだけ怖がらせて最後にどんでん返しを喰らわせる戦法も有りであるが、このように子供の視線から捉えてソフトな感触で進めるやり方も有効であるだろう(ただし“子供目線”らしい書き方にはまだ改良の余地はあると感じるが)。
個人的には、怪異に対するアプローチを考慮した上での文体選択であると考えるので、その点は高く評価させていただいた。
ただし気になったのは、“赤黒い水はドロドロしている”という表記。
どうしても怪異の肝として“水たまり=血”であることを示唆しなければならないのは理解できるが、恐怖感を与える表記がここだけ出てしまったことは少々いただけないところである。
“赤い色をした水たまり”という書き方だけでも、最終段階で“出産”という言葉が出てくることで、その正体が“血溜まり”だったと読者にイメージさせることは可能だったと思うだけに、惜しい気がする。
怪異の希少性も併せると、そこそこ評価できる作品であると思う。