【+1】冬景色

従来の実話怪談のスタイルと比べるとかなりリリカルな装飾が強調されており、写実的な乾いた表現ではなく、ウエットで感傷的な雰囲気を醸し出すことに力点が置かれていると思う。
恐怖を叩き出すという観点からだけ見れば、このような作品は不向きであるということで斥けられるだろうが、多種多様な怪談のスタイルを求めることからすれば、こういう作風が登場することには異論はない。
この作品の問題は、一点に集約されるだろう。
主人公が出会った男性が生身の人間であったか、それともそうでなかったかという判定が非常に微妙だということである。
作品内では、男性が人家のない方向へ歩いて行きそして“影がなかった”という記述をおこない、これを根拠として霊であったというニュアンスを出してきているのであるが、やはりこれだけの証拠では決定打となり得ないというのが正直な感想である(自分にあって相手に影がないとなれば決定的であるが、夕暮れ時で街灯の存在や天候が分からない状況では、影の有無は証拠にならないだろう)。
実話怪談である以上、いくら叙情的な文体であろうとも、心霊現象に関する事実認定を読者の判断に委ねるだけの書き方はアンフェアであり、しっかりとした実証がなされていなければならないと思う。
この作品の場合、この男性が霊でなければ“死ぬ直前の人が別れの挨拶に来る”という非常に微小な怪異だけを扱った(しかもそれが二次的伝聞なのだから、フィクションである可能性まで想定できる)ものになってしまい、些細な怪異について感傷的にダラダラ引っ張っただけの駄作になってしまうのである。
逆に霊であるということが決定的になれば、霊と会話をし、さらにその中で霊が生前体験した怪異を聞くという、とんでもなく希有な内容となるだろう。
最終的に男性が霊であるという判断が出来ない(また生身の人間であるという確証もない)という見地に立って評点をつけさせていただいた。