【0】挨拶

怪異の成立条件がかなり微妙という印象である。
前日までなかった像が翌日には立っていたという事実から、体験者が目撃したのは設置に来た業者ではないかという疑念が間違いなくつきまとう。
結局そのような怪異そのものを否定するに足るケースを未然に潰していくことも、作者がやるべき仕事の一つであるという意見である。
例えば、残業中の怪異ということになっているが、果たしてその時間はいつなのか。
もしこれが日付が変わる頃というのであれば、業者の可能性は断然低くなっていくだろう。
またその人影の動きの詳細が書かれていれば、もしかすると生身の人間と判断することが躊躇われる内容が含まれるかもしれない。
そういう情報を体験者から取材して盛り込まないと、単に胡散臭い内容と読者から酷評を受けても致し方ないと言えるだろう。
下手をするとこの作品の場合、体験者が一番奇異に感じたのが“前日までなかった像がいきなり現れる”事実だったように思えてならない部分もある。
やはりこのような微妙な怪異の場合には、体験者が怪異と認識した根拠の提示が必要なように感じる次第である。