【0】迷走

一読して思ったのは、強調すべき怪異のポイントがずれているのではないかという印象である。
最後の一文を額面通り受け取ると、道に迷いながらも気付くとちゃんと家に辿り着くことが不思議であるという締めくくり方になっている。
ところが、客観的に見て最も不思議感が強いのは、100km以上離れた場所からたった40分程度で戻って来れた事実であり、これこそ超常現象として取り上げなければならない部分ではなかったかと思う。
勿論、全て右折だけで家に戻ってこられたという事実も不思議であるが、やはり常識的に考えられない時間経過こそが怪異の真骨頂と見るのが妥当である。
このあたりが作者と見解が異なる故に、どうもしっくりとこない。
しかしこの時間経過に関しても、実は少なからず疑念が残る。
果たしてこの夫婦は本当に目的のインターチェンジで下りたのか、彼らが相当地理不案内であることが先に提示されているために、そのあたりの確証が何とも言い難いのである。
目的のインターチェンジで下りた事実が書かれている(もっと的確なのは具体的な地名が書かれていることだろう)、あるいはそのものズバリ行きに掛かった時間が書かれていれば、問題は解消できたはずである。
結局のところ、作者自身が“時間短縮の怪異”の凄さに気付いておらず、それを引き出すだけの情報を掴んでいないと言えるだろう(逆に、前半のハチャメチャな夫婦の会話は“迷走しても確実に帰宅できる”ことを強調するための展開に有効な手法であったと解釈できる)。
“異界”にまつわる話のバリエーションとして筆を進めた方が、よりよい作品となったように思う次第である。