『不思議幕の内弁当』
- 作者: 八樹輝虎
- 出版社/メーカー: 文芸社
- 発売日: 2007/12/01
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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しかしながら、文章そのものはネット投稿のレベルであり、起こった怪異についての説明では不足を感じないものの、“読み物”としての観点から見ると、商業誌との差は歴然である。印象としては“丁寧なあらすじ”を読んでいるという気分であった。怪異そのものについては時系列を追いながらしっかりと過不足なく書いているのであるが、描写部分での膨らみというものを感じることはなかった。いわばきれいな“骨格標本”である。10年ほど前の状況であればこれで十分通用するだけの内容であると感じるのであるが、昨今の「怪談事情」を鑑みると、読ませる要素を持たないというのはかなり不利なものと言わざるを得ない。中には怪異として非常に希少性の高いものもあり、書き方次第ではマニアをも唸らせるだけのものがあっただけに、何となく惜しいという気がする。
価格を考慮するとどうしても万人向けとは言えないだろう(自費出版である以上、どうしても価格設定は高めである)。だが“怪談ジャンキー”であれば一度目を通してみるのも良いかもしれない。やはり同じ穴のムジナとしては、こういう本を上梓した作者へのリスペクトを忘れるわけにはいかないだろう。