『いわくつき 日本怪奇物件』

いわくつき日本怪奇物件 (ハルキ・ホラー文庫)

いわくつき日本怪奇物件 (ハルキ・ホラー文庫)

正直「看板に偽りあり」と言わざるを得ない内容である。そう言うと、非常に粗悪な作品という印象になりがちであるが、この作品に限って言えば、タイトルだけがあまりにも扇情的に過ぎるという意味であり、内容に関しては相変わらずの福澤徹三氏のスタンスをしっかりと堅持したものになっている。まえがきで福澤氏自身がタイトルに関して“大人の事情”と断り書きをしているぐらいだから、何かあったのだろうと推測する。しかし、怪談本で“大人の事情”が作用する場合、内容が極端に抑えられているか、あるいは大仰な看板の割には中身がないというのが相場であることは疑いのないところである。作者である福澤氏の問題というよりは、出版元の戦略ミスであると思っておきたい。

タイトルの誇張ぶりをフォローするかのように、怪談話以外に都内の超有名スポットの写真紹介をしているが、この対応がむしろ個人的にはカチンと来ている。写真もありきたりであるが、コメントが輪を掛けて通り一遍すぎる。特に実話怪談を好む人種からすれば、おそらくこのようなレベルの紹介は不必要であると思うし、はっきり言って埋め草レベルにしか映らない。こういうスポット紹介の内容は、良い意味で“いかがわしさ”が必要であるし、怪談作家を看板にして作るのであればそれなりの工夫とネタで勝負しないと、ある種の潔い人海戦術に勝つことは出来ないだろう。何かタイトルの『物件』にがんじがらめになってしまって、中途半端な試みで終わってしまったように感じた。

…と批判的な文章が続いたが、作品内容に関しては、さすが一枚看板の怪談作家である。脳天を叩き割るかのような強烈なインパクトはないが、首筋をすすすと撫でられるような薄気味悪さは健在である。純粋に怪談話として読む分においては何の不足もない。怪異のレベルとの相性からすれば、非常にバランスの取れた凄味を感じさせてくれる。特に出色の作品は最終作。怪談世界では完全な“掟破り”の作品なのであるが、福澤氏の煽りの少ない書きぶりが却って事件の生々しさを生み出している。あとは“物件”怪談としては上玉の部類に入る(九州屈指のスポットでの怪異)『C隧道』、珍妙さで群を抜く『ぺこぺこさん』あたりが個人的にはツボであった。

繰り返し苦言を呈するが、これだけの実力ある作家をつかまえて、スポット紹介的なタイトルで煽る必要はなかった。タイトルを見た時の期待があまりにも大きかっただけに、完全な肩すかしを食らった気分である。しかも読んでいくにつれて、そんなタイトルがなくても十分読める内容だっただけに、憮然ということである。本物を正当に評価する余裕が欲しかったところである。