『隣之怪 蔵の中』
- 作者: 木原浩勝
- 出版社/メーカー: メディアファクトリー
- 発売日: 2008/06/18
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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だが問題は、前作と同じ筆致の部分である。一人称、しかも老若男女を問わず“私”で統一された告白証言体の文章は、はっきり言って続けて読むには非常に苦痛であった。この文体が全然駄目だという風には思わないが、これだけ連続して読まされると、どうしても単調さと稚拙な印象からしんどさを覚えてしまう。いわゆる投稿型の文章を集めて作られる二見書房の『ナムコ』シリーズでも、ここまで文体の統一は徹底されていない(同じ告白文でも、自分の呼称が変わっていたり、体験者以外の人間が語るというような変化をつけて書かれている)。果たしてこのようなざっくりとした語り口調で延々と文章を書き連ねることに何らかの理念や目的があるのだろうか、これは贔屓目に見ても甚だ疑問が残る。これが例えば、癖の少ない端正な文体で書き継がれていたならば、おそらく文章を読む点でストレスが少なく、スムーズな展開という印象で好結果を生むかもしれない。だが紋切り型の語り口調は、いくらネタに対する興味が強烈であったとしても、読んでいるうちに鬱陶しさが前面に出てくる。
前作と比べると、この語り口調で書くのがベターだと思う作品が増えたことは確かであるが、中には語りにしたために持ち味が大きく損なわれたと感じる作品はまだあると言うところである(特に前半部分の恐怖譚にその傾向が強い)。全体的な評価としては、個性という名の我を押し通した結果、本来最も尊重されるべき怪異の本質を輝かせることに成功していないのではないだろうか。ネタの部分で十分勝負できているのであるから、敢えて素材を殺すことをしなくてもという気がしてならない。