『刑務所の怪談』

刑務所の怪談

刑務所の怪談

タイトルを見た瞬間に「これは凄い」と期待していただけに、裏切られ方も酷かった。広い意味での怪談本になるが、ジャンキーが想像するような、ギッチリと怪異譚が詰まっているような内容ではない。刑務官として永年勤め上げた筆者がオカルティックな内容の思い出話をピックアップして書き上げたエッセーと見た方が無難である。
一番に辟易としたのが、刑務所という施設に関する蘊蓄や説明である。ある意味この本を読むに当たって必要な知識であることは頭の中で理解して極力頑張って読むようにしたのだが、やはりくどいぐらい書かれているためにかなり困った。必要であることは承知していても、やはり書きすぎという感は否めない。またストーリーに溶け込む形ではなく、独立して延々と建物の配置や刑務官の業務内容を説明しているので、余計に読みにくいという印象が強くなるのである。
そして肝心の怪異の内容であるが、決定的な心霊現象であるとかは非常に少なく、あっても能力のある受刑者から聞いたというものが殆どである。また筆者個人の体験についても、どちらかというと状況証拠によって何となく怪異らしいという感触はあるが、やはり決定打とまではいかない内容が多い。そのあたりの事情が、先に書いた“エッセー”という印象に結びついている。
全体としては、何かおどろおどろしい作りを見せているものの(章のタイトルなどは煽り全開と言うべきものがある)、純粋な怪談話としては不発という感じである。刑務所という特殊な環境だからこそ起こりえた内容であることは認めるが、そういう特殊性を除外すると非常に緩いと言わざるを得ないエピソードの方が多い。残念ながらシチュエーション頼りの企画物で終わってしまっているというべき作品である。特に最近“業界ネタ”が目立つだけに、その水準を超える内容がないと厳しいものがあるだろう。