『学校裏怪談』

学校「裏」怪談

学校「裏」怪談

学校は怪談の宝庫である。おそらく“学校の怪談”というテーマで執筆・研究をしてきた人の全員が同じようなことを言及していると思う。“感受性の高い子供の世界”ということが原因であると言う人もあれば“学校は閉鎖的な共同体のモデル”という指摘をする人もある。個人的には、閉鎖的共同体でありながら世代交代が急激であるために、通常の社会の何十倍ものスピードで噂が取捨選択されて醸成されていくので、定説と呼ばれる怪談話が数多く生成されていくのだと理解している。要するに、一個人が社会共同体の中心に存在できる年月を考えれば、通常の社会において100年掛かって創り出される“伝説”が、学校という土壌では10年程度で出来上がってしまうという構図が浮かび上がってくるはずである。消えてしまうケースも極端に多い代わりに、定番として生き残ってしまえば延々と生きながられる強烈な怪談に変貌する確率も高いわけである。
この本で取り上げられる話の大半ははっきりとした個人の実体験を収集したものであるが、中にはその個人の資質(つまり霊感があるということ)によって体験してしまった私的な内容もあるものの、連綿とした伝承の裏打ちが存在する怪異に遭遇したという報告も見られ、都市伝説が単なる風説ではないということを実証できそうな話もいくつかあった。実話の“話”よりも“実”を重んじる作者のスタンスが活かされていると言って良いだろう。このあたりは作者の真骨頂と言うべき部分でもある。
著作全体の構成について言えば作者の個性が全開となっており、極力事実に忠実であるべきという意図で書かれた実話、間違いなく噂話として流布した内容を報告した記事の両ジャンルを集めている。実話オンリー、都市伝説オンリーという形にしないこだわりは作者の明確な思想の反映であるので特に問題視することではないと思うし、今作品では実話と伝承をきちんと住み分けて書いているので、読者が混乱することもないだろう。むしろ“学校の怪談”を俯瞰する場合に実話と伝承のどちらも避けて通ることは出来ないと思うし、両者が並び立つことこそが本来の姿であると思う。その点で言えば、今作品はなかなか面白い視点で作られていると言っていいだろう。ただ最後の作者の補遺的な記事については少々問題があるかという意見である。昭和時代のこの手の作品では結構見受けられた体裁なのであるが、昨今の編集スタイルと比較すると何となく尻切れトンボのような印象が強い(良く言えばボーナストラックなのであるが、本来の主旨と違うコンセプトなのでそのあたりの評はちょっと厳しめだ)。全体としては恐怖感を煽ることを目的とした内容ではなく(とは言うものの、頻繁に挿入されるイラストは結構気持ち悪いが)、“あったること”としての怪異をきちんと打ち出すことを主眼としている内容だと言えるだろう。
余談となるが、今作品を評するに当たってカテゴリーを[都市伝説系]ではなく[怪談系]とした。それだけ貴重な怪異の報告があると判断した結果ということで了解していただきたい。