『新耳袋 大逆転』

直撃現代百物語 新耳袋大逆転

直撃現代百物語 新耳袋大逆転

去年の『殴り込み』がかなりオチャラケの1作だっただけに今年もあまり期待せずに買って読み進めていったのであるが、テイストそのものはそれほど変わっていないにも拘わらず、非常に中身の濃い好作品に仕上がっていた。まさに突撃ルポタージュと言っていいような、成功や失敗に関係なくしっかりと状況を描写した内容は緊迫感溢れるものであり、前作のようにウケ狙いのオチに意図的に持っていくのではなく、ある意味“あったること”のままを書くという姿勢が強く打ち出されていたように思う。それ故に、たとえ収穫がなくとも怪談マニアを納得させるだけの説得力があると言えるレベルにまで引き上げられている。とにかく昨年の作品に失望した人ほど手にとって読むべしと言いたい。
各章ごとに非常に良い味を出したレポートなのであるが、前作によく似た印象の第一・二章もそれなりに読ませる場面があり(故・石井監督にまつわるエピソードはなかなかのネタだ)、そしてそれ以降の章はそれぞれ適当なオチャラケと迫真の部分が絶妙に混ぜ合わせられており、独特の雰囲気を醸し出すことに成功しているように思う。三章の【三本足のサリーちゃん】の記憶を手繰りよせるようにして核心の真実を解き明かす展開は王道の実録ルポタージュであり、四章の【幽霊マンション】から五章の【山の牧場】に至る再チャレンジの内容も、豪華ゲストの絡み合いもあって臨場感のある内容に仕上がっている。さらに最終章の【犬鳴トンネル】でのレポートも“大収穫”有りということでフィナーレを飾るに相応しい内容であるだろう。だが個人的に非常にお気に入りなのは、ナンバリングされていない“一話”。怪異現象としても非常に希少性の高いものであると思うし、さらにそれが有名事件に直接関係しているという点、またこの怪異が第三者によって裏付けされている点が、並の話を超えるものであるという意見である。この一話だけでも読む価値はあるのではないかという感じである。
笑いと恐怖の匙加減という点では、前作を大幅に超える評価をしたいと思う。また怪異に迫る実録怪談としても、十分読み応えのある内容だろう。次作があるかどうか微妙だが(『新耳袋』の大ネタは出尽くした感があるが)、こういうテイストの怪談本も捨てがたいということである。