【0】一人千人針

タイトルにある“千人針”という言葉と、冒頭部分の嫁姑のトピックで、おおよその展開の見当がついてしまった。
しかし“千人針”については明らかな誤用である。
これは女性が念を込めるという行為ではあるが、出征兵士の武運を祈って行うものであり、呪いとは一切関係ない用語である。
誤用のレベルとしては“かなり失礼”な部類のものであると思うし、読者によっては気分を害する次元のものであると感じるところである。
“呪いネタ”としては、使われた道具の異様さはなかなかの印象なのであるが、どうしてもそれに付随して起こっている呪いの内容自体が何となく弱いような気がする。
要するに、神経を逆撫でされるような不快感を伴う怪異であるとは思うのであるが、直接的な危害が及ぶという印象はほとんどない。
それに対して、呪いのアイテムが露見した後に書かれているトピックがあまりにも唐突なのである。
姑が体調を崩してあっけなく亡くなるというのはいわゆる“呪い返し”による倍返しと解釈できるのであるが、姑の義母の死を引っ張り出してきたのはかなり違和感があると感じた。
可能性はなきにしもあらずであるが、類似性について考えると確証はないという印象であり、却ってそれを出してきたことによって何か大袈裟な話になってしまった感が強い(場合によっては、体験者の被害妄想が激しいと取られかねない勢いである)。
もう少し体験者寄りの視点から離れて、客観的に“あったること”を中心とした描写表現に心掛けた方が良かったかもしれない。
加点と減点で評点は相殺というところである。