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怪異の判断が非常に微妙な作品である。
気配や音が玄関から2階へ、さらに屋根へと昇っていくとあるのだが、それを決定付ける流れがはっきりとしない。
飼っている犬がだんだんと追い詰めているという解釈自体は面白いのであるが、実際の怪異とみなしている音との因果関係が完全でないために、何となく偶然ではないか、あるいは体験者自身がそのように家鳴りを認識しているのではないかという疑いも生じている。
結局、家鳴りの現象だけで怪異と断定する、または飼い犬の様子と比較してあやかしが移動していると主張するだけの決定打に乏しいと感じるところが大きいのである。
ただ逆に言うと、書き手が家鳴りと犬の動きの間に因果関係を見出し、それを何とか結びつけようと努力しているのが文章中から見て取れるわけで、その点では何となく好印象を持った(しかし文章が良いというのではなく、むしろ野暮ったいぐらい説明過多に陥って苦しいのだが)。
ある意味定番の怪異であり、また文章的にも問題があることは間違いないのであるが、しかし書き手の真摯な態度には何か惹かれるものを感じたので、マイナス評価だけはしなかった次第である。