【−5】住活

とにかくダラダラとした会話調で冗長な展開をしており、ある意味読ませる文体であると思うが、内容が空疎であるため疲弊感を伴うレベルであった。
結局印象に残ったのは、不動産屋が見せる訳知りの対応の胡散臭さであり、魅入られたように嬉々として家に通う妻の異常ぶりであって、本来の怪異であるはずの夢と塩の部分についてはほとんどインパクトはなかった。
夢については怪異のきっかけとなるだけであって、それ以上のものでもそれ以下のものでもない感じであった。
ただ塩のくだりについてはあらゆる面で唐突感が強く、強引に話をまとめに掛かっているという印象さえ残った。
水も滴るほど塩が湿気るというのはまさに怪異であるのだが、その変化に気付いた時の体験者の驚愕なり恐怖というものが一切書かれておらず、なぜいきなり「帰る」という行動に出たのかが読者にまで伝わらない(あるいは過去にそのような体験があったために即座に行動に出たとすれば、それなりの事前情報を書く必要があったのに、それも全く触れられていない。いずれにせよ、行動に飛躍を感じざるを得ない)。
それまでのくどいぐらいの説明と合わせて考えると、怪異に対する書き手の意図は全く理解できない。
引っ張るだけ引っ張った内容になっているが、それに見合うだけの怪異ではないために、最終的には徒労感だけが残ってしまった。
まさに腰砕けの内容と言っていいだろう。
ただこれだけ空疎で冗長な内容で最後まで期待させて読ませた文章技量があるので、最低評価は避けさせていただいた。
ただし怪談としては、どうでもいいような内容ばかりで話をふくらませた、最低レベルの作品といって間違いないところではある。