【超−1】関連四連発

評を書きたい本がうずたかく積もっているので、、通常よりも短い形で一気に紹介したい。
『恐怖箱 怪癒』

恐怖箱 怪癒(かいゆ) (竹書房恐怖文庫)

恐怖箱 怪癒(かいゆ) (竹書房恐怖文庫)

ある意味、最も特異な形で培養されているシリーズ。過去のどの怪談作家とも違うテイストを持っており、その濃厚さは一度はまると病みつきになる。今回も衝撃的な作品を多く引っ提げてきている。特にラスト2作は脳天を打ち砕かれるという表現に近いほど、異質で且つ最上質の怪異譚となっていると言えるだろう。
最終作の「蛇の杙」はある女性の半生を覆い尽くす怪異を余すところなく書ききり、さらに強烈な真相で読者の度肝を抜く。個人的にはほぼ同年代ということで余計に移入するところが強かったが、濃密に描かれるディテールがあればこそ何とも言い難い雰囲気が醸し出されるという印象がある。最短距離にストレートに書かれる怪異譚も良いが、こういうディテールにこだわり、キャラクターが造型されていくプロセスを読みながら堪能する長編(約70ページの分量だが、怪談としては異例のボリュームである故に、敢えて“長編”とさせていただく)も素晴らしいと思う。
そして心霊現象の記録としての価値では最終作を凌ぐと言っても良い「網」には驚嘆の一語である。このジャンルの体験談としては異常なまでの長さ、そしてそれがリアルであるが故に臨場感を持って読者に迫ってくるところが、この作者の真骨頂と言えるだろう。濃密な構成が、ある意味ありきたりでこれ以上出色のパターンがないと思われていたジャンルの怪異の金字塔をうち立てたという印象である。数多くの心霊体験談を読んでいる者であればあるほど、この作品の凄味が理解していただけると思う。
今後も注目は大である。


『「極」怖い話 罠』

(竹書房恐怖文庫)「極」 怖い話 罠 (竹書房文庫)

(竹書房恐怖文庫)「極」 怖い話 罠 (竹書房文庫)

どちらかと言うと、強烈なレベルの作品はほとんどなく、小ネタを奇麗に並べたという印象である。そして刊行された時期から考えて【超−1】を意識したと思われる講釈をつなぎとして展開されている。そのために何となく理が勝ちすぎているのではないかという雰囲気が強く、うまく没入出来なかった部分がある。ある意味作家の肩書きではなく、編集者の視点で書かれているように感じた。
全体としては“引き算の怪談”の書き方に徹することを強く意識し、実際にそれを実践している。しかし逆にそのようなパターンが続いてしまうために、どぎつい内容の作品が少なく、味気ないというところもある。むしろ読み物としての外連味を若干削ってでも、好事家の触覚をそろりと撫でてみせるような巧妙さを強く感じる。言い方を換えれば、実験的とまではいかないものの、作者の主義主張を色濃く反映させた内容に仕上がっていると思う。ただし正直、同じような筆法で書かれているために、個人的にはやや面白味に欠けるという感想である。求めているレベルが高い過ぎると言われてしまえばそれまでだが、これだけのネタを集めたからにはそれなりに読ませてほしいと感じる部分があったのは事実である。


「超」怖い話 怪逅』

恐怖文庫 超怖い話 怪逅 (竹書房文庫)

恐怖文庫 超怖い話 怪逅 (竹書房文庫)

ほとんどの大ネタ作品が、深い闇の中にその真相が隠されており、その一端だけが体験者によって表に出てきたが、結局強制的に引きちぎられるようにまた闇へ没していったという印象である。とにかく禍々しい記録の連続であり、たった一人でこれだけの強烈な因業話を集めてくる実力には、本当に舌を巻くしかない。“鬼子”とは良く言ったものである。
とにかく常識の枠を外れていることは間違いない事実が起こっているのだが、その全容は全く解らない。本来ならそのようなパターンが並ぶと、ある種の焦燥感や中途半端な印象がまさってしまい、とてつもなくレベルが低いという気分にさせられるのであるが、怪異のレベルが高いためにそのような煮え切らない幕切れとなっていても全然フラストレーションが溜まらない。それよりも、本当の結末を知らない方が身のためであるという気にさえなってしまう。ネタの強烈さではやはり頭一つ抜きんでているという凄味を感じざるを得ないところである。
そのような救いのない話の合間に、また軽妙なネタが入り込んでくるところが、この作者の曲者ぶりである。思わずニヤリとさせられる、あるいは吹き出しそうになるをこらえなければならないような話がまたアクセントとなっている。心憎いと言うべきなのだろう。ただこの軽妙さが却って、救いのない話をさらにインパクトのあるものにさせているのも事実である。
特にきついのは「書と楡」「ある家族との対話」「きじゅろ」あたり。ここで語られる怪異が、読む者を荒涼な世界に引きずり込むことは疑いない。おどろおどろしい雰囲気を持つ文体ではないが、的確に事実を積み上げていく中で人知を超えた何かの意志を感じ取ることが出来るだろう。そこにこの作者だけが持つ禍々しさを見ることが出来ると思う。逆説的な言い方になるが、この本を読んで、恐怖感以上に“魅入られた血”を持たないことに対する幸せを感じてしまった。


『恐怖箱 蟻地獄』

恐怖箱 蟻地獄 (竹書房恐怖文庫)

恐怖箱 蟻地獄 (竹書房恐怖文庫)

三者三様の怪談集ということでは、昨年上梓された“恐怖箱”シリーズと同じなのであるが、今回は少々いろどりが違う。今までは【超−1】の上位ランカーの競演ということになるのだが、今作はいわゆる“中堅”どころが入ってきてバリエーションを増やそうという意図が出ている。それ故にこの作品集のキーパーソンは高田公太氏になってくる。
他の二人の作者、原田空氏と矢内倫吾氏は昨年の実績もあり、良くも悪くも安定した書きぶりとなっている。実際それぞれの持ち味を出した妙作が並んでおり、出色とまではいかないものの、水準点を超える内容であると評価出来る。原田氏の水商売ネタ、矢内氏の神様ネタは、やはりという風格である。
この二人の安定した作品を縫うような全編に渡って登場する高田氏の作品であるが、これが良くも悪くも【超−1】時の評価と変わらないのである。恐ろしいまでに怪談の妙味を出し尽くしているような傑作があると思えば、どうしようもなく凡庸と感じてしまう駄作が混在する。本当に両極端な評価に割れてしまって、果たして真の実力はどうなんだという心配をしてしまう。それが【超−1】における個人的な評である。さすがにとんでもない失敗作と思えるような作品は皆無であるが、明確なムラがあることは間違いない。しかしそのムラ気が何とも面白い模様になって、この本の印象に繋がっているように感じる。ある意味奇妙なノリの良さと言うべきだろうか。おそらく高田氏一人であればとんでもない結果になっていたかもしれないが、脇を実力者が固めることで、ある種自由奔放と言えるテンポが活かされているように思う(勿論、ムラ気を嫌い完成度の高い作品集を求める傾向の強い読者からすれば、模様もアラにしか見えないだろうが)。ただバリエーションの点で見れば、そこそこ成功していると言えるだろう。全てがとてつもないレベルの高い怪談集というものはまずあり得ないわけであるし、それを思えば今作のムラは十分許容範囲である。十分楽しめることは保証する。