二人著者本を三連発

前回に引き続き、短評連発ということで。


『妖幽戯画〜おどろ怪異譚』

妖幽戯画 幽玄漫画怪異譚 (竹書房文庫)

妖幽戯画 幽玄漫画怪異譚 (竹書房文庫)

うえやま洋介犬氏と西浦和也氏とのコラボレーションによる怪談集である。構成上、完全な実話怪談集とはいかないが、それなりに興味深い話が散見出来る。両著者ともどちらかというと、インパクトのどぎつい恐怖よりもジワリと後から来る恐怖を表現するのに長けているので、水と油のような形のコラボではなく、怪異集としての雰囲気を壊すことなくお互いが力量を発揮していると言ってもいいかもしれない。絵と文章ということなのでどうしても印象は異なるのであるが、それでも1冊の本としてのスタンスがコロコロと変わるような、いわゆる“取って付けたような”仕事にはなっていない。
しかしながら、雰囲気的な流れを壊さずまとまっているのだが、お互いのネタの交流というべきものがなかった。二人の気鋭がコラボするとなれば、やはり少なくとも同じお題(カテゴリー)を元に自分たちのネタを展開するような場面があっても良かったのではないだろうか。意地の悪い見方をすれば、今作のコンセプトは、実はそれぞれ単独ではネタが不足しているのでとりあえず似たセンスの者同士のネタを合わせて本にしましたという印象もなきにしもあらずである。次作があるならば、単純に実力者二人の作品が見れてお買い得というニュアンスではなく、二人が融合することで新たな面白味を見せるコラボの醍醐味を見せてもらいたいと思った。


『百物語 第八夜』

百物語〈第8夜〉―実録怪談集 (ハルキ・ホラー文庫)

百物語〈第8夜〉―実録怪談集 (ハルキ・ホラー文庫)

気が付くと、もう8作目になるのかという感慨の方が強い。自他とも認める“怖くない怪談集”の最右翼であるが、こうやって毎年律儀に発刊されているところを見ると、平谷氏が言うところの“作品として上梓されることで供養になる”という流れがしっかりと定着しているという印象である。特に今回は“怖くない怪談集”としての実力を発揮していると思う。はっきり言えば、今まで上梓されてきた8作の中で最も端正で美しい仕上がりではないかという感想を持った。
正直なところ、やはり取り上げられたエピソードの中には、贔屓目に見ても“心霊現象”であるとは言えないものがあった。しかしそのようなエピソードも含めて、記録としての怪異譚・不思議譚の価値はなかなか高い。特に読者に対して恐怖感を煽ろうという意志がほとんどないために(相変わらず音の部分だけフォントを変えて書くというような、ある意味姑息な煽りと言われてもおかしくない表記も若干あるが)、無駄のない事実関係が浮き彫りになっており、それが怪異譚としてのリアリズムを生み出している。また今回は“感動系・癒し系”の作品を最後に配するなどして、怖くない怪談の真骨頂を貫いていると思う。初期作品では「怖くない」と文句を言われ、作者自身の「怖くないと言われているけど」みたいな開き直り発言もあったりしたが、今作は意図的とも思えるほどこだわりが活かされたように感じる。独自のスタンスが開花したと言うべきだろうか。
強烈な恐怖を求める向きの人には今ひとつという印象かもしれないが、一つのコンセプトに従って編まれた作品集としては完成度は高いので、是非手にとって読んでみた方がいいと思う。怪異とは、通例こういう何気ない日常の中で不意に起こり、そしてあっという間に駈け過ぎていくものだという感覚がよく分かるのではないだろうか。ある意味、怪異に遭遇したことのない人間が怪異の本質を理解する上でも、結構貴重な書きぶりではないかと思ったりもする。あと2年は続けてほしいところである。


『大人の怪談』

正直なところを書かせてもらうと、駄作の一語に尽きる。
内容はおよそ怪談話とは思えないような、ズバリ言ってしまえば楽屋裏でマニアが集まって繰り広げる“ちょっとした変な話”を対談集として文字に起こしただけのものである。しかも内容は多岐に渡ると言えば格好良いが、要するに支離滅裂であり、思いついた話をダラダラと続けているという印象である。特に活字化しなければならないというほどの内容でもないし、これならば自分の周辺のお仲間と一緒にダベっている方がよっぽどすごい裏話が聞けそうである。
もう少し詳細を書くと、とにかく二人に喋らせただけというのがいけない。要するに方向性もなく好き放題話しているだけだから、読者の存在を忘れてしまっている。おそらく傑作『妖怪馬鹿』の京極・多田・村上の伝説の鼎談を真似ているのだと思うが、読者を唸らせるようなひらめきも蘊蓄もなく、ただ自分の手の内の話をひけらかせているにとどまっている。だからこの世界に興味のある人間ほど、読んでいて馬鹿らしくなってしまうのだろうと推測する(かくなる私自身の感想はそうであったわけだ)。作品集でもなく、研究書や概説書の類でもなく、それどころか問題提起すら感じない。ただ二人の会話がグダグダと並べられただけ。とにかくメッセージ性というものの欠片が全くない。
はっきり言ってしまえば、企画がダメなのである。この対談に登場した木原氏と辛酸氏が悪いというのではなく、しっかりとした視点で何を打ち出そうとするのかを決めないまま喋らせてしまった編集者の責任だろう。中には面白いという読者もあるとは思うが、少なくとも本気で怪談を求めている人は中味を読んでから購入を決めた方が幸せになれると思う。たぶんタイトルにある“大人”とは、少々のことでは文句を言わない、本音を言ってしまえば身も蓋もなくなることが理解出来て、それを配慮出来る人のことを指しているのだろう。
私は怪談に対しては純粋無垢なので、典型的な“大手出版社のやっつけ仕事”と断じておきたい。