竹書房二連発

まだ山積みされている本もあるが、【超−1】関連ということで最新作を2つ。


『恐怖箱 赤蜻蛉』

恐怖箱 赤蜻蛉 (竹書房文庫)

恐怖箱 赤蜻蛉 (竹書房文庫)

このシリーズは3人のランカーが登場して、それぞれの個性を発揮して1つの作品集にまとまっていく体裁を取っているのであるが、今回だけは鳥飼誠氏の実質上のワンマンショーという印象である。全50話のうち33話を書いているという物理的な部分にも依るのであるが、それ以上にこの作品集そのものの持っているカラーを如実に示しているという部分においても存在感が際立っているからである。
鳥飼氏は初回の【超−1】での戦績が、久田樹・松村進吉両氏に次ぐ第3位としてランクインした怪談の猛者である。ある意味、次の“贄”に最も近い地位にまで登りつめた逸材である。怪異を吸い寄せてくる才においては久田氏に匹敵するだけのものを持っていると思うし、実際それだけの数を叩き出した実績もある。特に強味を見せるのが“不条理系”の一発物。初読の印象が「ありえない!」しか出てこないような強烈なインパクトの掌編を上梓させれば、おそらく並み居るランカーの中でもダントツの力を発揮すると言ってもおかしくない。だがあまりのインパクトの強さに話の内容が現実味に乏しくなってしまうきらいがあり、また読者をドン引きさせるようなヘビーな作品が割合として少ないという弱味もあって、なかなか一枚看板になりづらいというのが、個人的な評価である(と書きつつも、もっと高く評価されるべき書き手であるという気持ちも強い)。
ところが、今作はまさにこの鳥飼ワールドが炸裂している。恐怖体験談でも怪談でも怪異譚でもない、微妙な言い回しをすれば“ワンダーワールド”という表記が一番しっくり来るように感じる。「何じゃこりゃ!?」という感想を持たせたら、おそらくこの本の目的はほとんど達せられたと言うべきだろう。心胆寒からしめる恐怖譚とは一線を画するが、怪異そのものは魅力ある内容である。
共著者についても少し。怪聞亭氏は掲載作も少なく、また【超−1】で投稿された強烈な作品と比べるとインパクトが弱いという印象。つきしろ眠氏はネタとしては良いものを出してもらっているが、少々文章がぎこちない。特に状況説明部分で読み返さないと展開がスッと入ってこないところがいくらかあったのは、やはり商業誌としてはいただけないという感じである。次回作に期待というべきか。


『恐怖箱 女郎花』

恐怖箱 超ー1怪コレクション 女郎花 (竹書房文庫)

恐怖箱 超ー1怪コレクション 女郎花 (竹書房文庫)

2009【超−1】の傑作選ということであるが、採用された作品のラインナップを見て「どうかなあ」という気分にさせられたのが偽らざる意見である。やはり大会屈指の大ネタである『鳥居の倒れた土地』と『晶働』が掲載されていないのには違和感を覚えた。また、人間の負の感情をしこたま溜め込んだ因業話や、ヘビーな展開の作品の多くが見送られている。何か一抹の寂しさを感じてしまうラインナップであるようにも思う。勿論、セレクトされた作品が凡庸であるという意味ではない。水準以上の作品ばかりであると思うし、実話怪談集としてはこの作品群でも十分読み応えがあることは間違いない。しかし【超−1】投稿作を全て読んでいる者からすれば、何となく物足りないのである。
この『女郎花』が【超−1】の傑作選集であると同時に「恐怖箱」シリーズの有力ラインナップであることを考慮すれば、今回の加藤氏のセレクトは決しておかしなものではない。今年発刊された『蟻地獄』と『赤蜻蛉』の流れから見ると、情け容赦のない重い因果譚を大量に掲載することの方が違和感を覚えるのは確かであるし、いわゆる“意外な採用”として抜擢された作品の傾向からすれば、ワンダーな印象のある怪異を優先的に盛り込んでいると考えることができる(こんなことを書くと、来年の投稿作の傾向に影響が出てもらっては非常に困るのだが…。とにかく“今年の傾向”ということで留意されたし)。
しかしやはり“傑作選”という観点から、あるいはバラエティーに富んだ書き手たちの熱意を考慮すると、純粋に評価の高かった作品を選んで掲載すべきだったような気がしてならない。コンセプトを有した編集の妙味を味わうことも面白いのだが(『白』のエピローグ部分を、最終作に持ってくることで最大限に活かしたところあたりは「さすが」と唸らされるのだが)、素人の集めた強烈な怪異の記録という部分を重視した方が意義があったように思う。
個人的には、私が著者推薦で推した書き手が多数採用されており、我が事のように嬉しく感じる(特に実力者に交じって、強烈なネタを引いてくる森久恩氏が多数採用されているのは、推した甲斐があったと思う)。また大会後に書かれた書き下ろしもまずまずの作品が多かったし、また来年に期待するということで。