【0】赤い髪

非常にウエットな展開であり、怪異の内容もなかなか希少なものであると感じる。
しかし読んでいて強く感じたのは、怪異を中心として構成された作品というよりも、体験者の人となりを紹介したロングインタビューという傾向が色濃く出てしまっているという印象である。
死んだ彼の姿が見えているのが体験者だけという部分によるところも大きいが、やはり“体験者の都合”が展開上に明確に出てきていると感じてしまったところが決定的であった。
例えば、彼の死についてのコメントであるとか、ためらい傷を見せる部分とかは、怪異そのものを語る本筋とは完全にかけ離れて、体験者自身の当時の気持ちを前面に押し出す要素にしかなっていない。
また冒頭と末尾に置かれた体験者と採話者とのやりとりは、まさしくインタビュー形式のフォーマットを踏襲したものであると言える。
その部分でのやりとりが濃密であるが故に、本来怪談話としてメインとなるべき霊体と過ごした日々の思い出話が大きな枠内でのエピソードにしか見えないのである。
要するに、“あったること”としての怪異そのものを表現することが目的ではなく、怪異を通して体験者自身のポリシーであるとか生き様を抽出することの方がメインになっているという印象が、どうしても先に出てきてしまうのである。
もちろん“怪異を通して人を書く”ことも怪談の目的であるが、ただこの作品の場合、その情感に訴える部分のほとんどが体験者のキャラクター形成に消費されているようにしか見えないのである。
言うならば、怪異もしっかりと書かれているのだが、その部分よりも前後の体験者と採話者のやりとりの方が活き活きとしていて、怪異の展開の方がややくどくて勢いに欠けるようにしか見えないのである。
それ故に、作品の外枠になっているやりとりを完全に取っ払ってしまい、“あったること”の怪異だけを書き綴り、その怪異の展開の中で体験者の感情の発露を余すことなく表記すれば、おそらくもっと情感に訴える佳作となっていたように感じる。
結果的に、作品中における怪異の役割がかなり薄まってしまっている(というよりも体験者のキャラクターというフィルターが強烈なまでに濃すぎる)と判断したため、怪談としてはプラス評価にまでは至らずということで落ち着かせていただいた。