【+4】渡らずの踏切

登場人物の名前や状況を鑑みれば、この作品が今大会において投稿された一連の怪異譚の“連作”的なものであることは間違いないところである。
そのせいもあるかもしれないが、冒頭にあるべき登場人物同士の関係であるとか、途中で登場する渉氏の行動に対する霊体の反応の原因が一切書かれていない点とか、“連作”であることが前提としか思えないような書きぶりがあったことも事実である。
大会のルールを考慮すれば、この“連作”を意識した作品を失格に値するとして切り捨てることも可能なのであるが、個人的な見解としては、問題の部分は表記上の瑕疵ということで収めておいて、怪異の内容そのものを高く評価すべきであると思う(“例外のないルールはない”という精神に従うことが最も健全な発想というポリシーの下に立っている故の発言であることを承知していただきたいが)。
まず登場する霊体の特殊性が非常に際立っており、異様さが前面に出てきている点が評価できる。
またそれについてのディテールを体験者が努めて冷静に書いており、臨場感という点で非常に迫力のある内容に仕上がっていると思う。
悪く言えばホラー映画のCG映像を参考にしたような、かなり創作臭さを感じさせる記述になっている部分もなきにしもあらずであるが、怪異の内容が“色情霊”と推断されるようなものであるために、少々劇的な展開であっても極端に胡散臭いと思うには至らないという印象である。
むしろ色情霊の異常性に対する体験者の嫌悪感が如実に出ている方が怪異のレベルに適しているという意見が強く、体験者の主観が色濃く滲み出ている書きぶりは、個人的には好印象であった。
明らかに説明不足と思われる部分があるのは事実であるが(ただしその部分は、怪異の本質を損なうものではないと断言できる)、それを補って余りある迫力と強烈なまでのディテールの提示は、凡百のネタをはるかに凌駕していると思うし、壮絶な心霊体験として記憶にとどめておきたいと思わせるものを持っていると言えるだろう(もしかするとこの作品の書き手本人が体験者である沙耶さんではないか、とすら想像してしまったぐらいのリアルさには本当に圧倒されてしまった)。
ルールに抵触するかもしれないが、それでもなお、渾身の一作と呼ぶのに何の躊躇いもない傑作と評して然るべき作品であると断じたい。