【+1】カウント

突然残りカウントを告げられるという不条理極まりない内容の怪異であり、何かの予兆を表す怪異ではないかと、読み始めてかなり緊張感を強いられた。
ところが、カウントがランダムであることが分かり、しかもカウントゼロに限りなく近づいたからといって何かが起こる気配もないというところに落ち着いてくると、今度は圧倒的な不思議感に襲われた。
このあたりの展開は、書き手がかなり計算して書いているという印象である。
体験者が聞いた声はおそらくもっと多い回数起こっていると推断できるのだが、それを事細かに書かずに、全く異なる状況と声の方向を4回書くことで、バリエーションの豊富さを示唆することに成功している。
さらに言えば、この4つの異なる状況を非常にテンポ良く一気に読ませるから、くどいと思うこともなく、情報としてすんなりと刷り込ませている点も非常に巧妙と言うべきだろう。
それ故に、最後のところで“声の主はいつも同じ様だが”と控え目に書かれていても、読み手のほとんどは“間違いなく同じ奴が言っているのだろう”としっかりと認識することになる。
おそらく続発する怪異の内容を引っ張ってくどくどと書いてしまうと、あまりにも取り留めのない内容となってしまったと思うので、このあたりの文章の処理方法はベストではないかと考える。
しかしながら小ネタであることには変わりなく、またカウントという意味のありそうな内容でありながら現在進行形で締め括られているために未消化感が強いということもあって、大きく加点というレベルにまではいかなかった。
ただこういう作品は、一つの作品群の中にあって良い意味でのアクセントとなる要素を持っているので、そういう使われ方をすれば断然光り輝くことになるのは想像に難くないことを付け加えておきたい。