【−2】石垣

城の石垣(書かれている内容からすると、観光施設として作られたものではなく、実際の城郭の遺構として残されているもののようである)に異空間ができて、そこから男性が顔を出し、さらには体験者と会話をおこなうという、かなり希少な怪異体験であると思う。
ところが、その肝心な怪異の部分でかなり問題が生じている。
まず石垣に現れた窓のような空間の大きさが、イメージとして非常に湧きづらいことになっている。
“縦横1メートル弱”の枠で、そこから見える男性が“肩から上の部分”しか見えないとなれば、かなり小さな覗き窓という印象なのであるが、体験者はそこに近づいてその中の様子をうかがっているので、どれだけ覗き込める隙間があるのかがうまく理解できない。
結局のところ、石垣にできた穴の中から見える男性(霊体)の立ち位置が明確でなく(口のすぐ近くで立ち塞がるようにいるように感じるのであるが、状況から推測すると、奥まったところにいるようにも見えてくる)、距離感が曖昧なまま体験者が見たままを書いてしまったために、全体の位置関係が分かったようで分からない印象となってしまった。
そして最もいけないのが、男が消えてしまった瞬間の描写である。
書かれている内容では、体験者の視線がそれた僅かの時間で消えたことになるのだが、先ほど書いたように、石垣の中が覗き込める隙間があるのかどうかすら分からない状況のために、全く描写が不足しているようにしか見えないのである(ごく普通に読むと、石垣の奥の方を覗き込んでも、男の姿が捉えられないほど視線をそらすことが出来ないようにしか見えないのである)。
肝心の怪異そのものの部分で明らかな説明不足が生じていると判断できるので(しかもそれが怪異の信憑性にまで影響している)、やはりマイナス評価とならざるを得ないところである。
石垣にできた亜空間と男の位置関係が客観的に容易にイメージできたならば、なかなか面白い怪異譚になっていたと思うのであるが。