【−1】深夜の横断

あやかしの姿が時々刻々と変化して見えるという事象は、それほど珍しいものではない。
そういう変化に着目して一つのストーリーに仕上げるという手法も当然ありだと思うし、なかなか興味深い内容になると思う。
しかしこの作品の場合、この変化の書き方が非常に滑らかでないために、非常に雑然とした印象しか残らなかった。
対象であるあやかしの比喩が次々と変わっていく部分であるが、変化という“時間の流れ”の中での描写であれば問題ないのであるが、どうしても体験者の目撃の瞬間の状態として切り取られているという印象が強く、変容という一連の動きではなく、同じものをバラバラの感覚で捉えたようにしか見えないのである。
それ故に、目まぐるしく変わる言葉が、まるで体験者が見間違いを繰り返しているのではないかという印象すら与えてしまっている。
単純な目撃談であり、これ以上の細かな描写で文章を伸ばすことも難しいので、具体的な比喩を最後の“テナガザル”だけにとどめてあとは動きの描写だけにするなどの、表記上の工夫が必要だと思う。
また最後の体験者の感想についても、実話怪談の記録としてはあまり感心できる内容ではない。
読み手に対して客観的に納得させるだけの根拠が提示できなければ、この体験者の感想はただの憶測に過ぎず、この体験そのものまでを胡散臭いものに感じさせるだけの存在となってしまう(怪談愛好家が、自称霊能者の解説を毛嫌いするのと同じ心理が働くはずである)。
トータルで見ると、やはり可もなく不可もなくよりは下回るという評価とせざるを得ないところである。
少なくとも“あったること”だけでまとめ上げるのが“実話怪談”のセオリーであると言えるだろう。