【0】ワン切り

まさに“あったること”だけを記したという印象しか残らない作品である。
書こうと思えばもっとウエットな情感を際立たせることも可能だと思うし、もっと不思議な雰囲気を醸し出したければそれなりの書き方もあったと感じる。
ところが、亡くなった母親の携帯番号であることが判明した瞬間も、そして墓参りをした後のワン切りについても、体験者のリアクションは実に淡々とし過ぎているぐらいである。
そのために取りたてて盛り上がることなく、凄く素直に話が展開して終わってしまったように見えてしまうのである。
もしかすると、書き手はその素直な体験者のリアクションの中に亡き母親との結びつき、つまり亡くなった母親が使っていた電話番号を見た時に、何の疑念持たずに全てを理解して受け入れる姿勢そのものによって、生死の概念を越えた親子の繋がりを見せようとしたのではないだろうか。
ただ、その試みはあまり成功していないと思うし、やはり何かすごく薄味の料理を食べさせられた雰囲気に似た物足りなさを覚えるのである。
またネタとしても“よくある話”のレベルから抜け出る内容ではなく、あまりにもあっさりとし過ぎたまま終わってしまったと言えるだろう。
マイナス評価とすべき点もなければ、プラス評価とする要素もないということで、可もなく不可もなくという評価とさせていただいた。